第324話 攻撃

「くそっ」

 シロを囲うように生成した土の壁だったが、あっという間に破壊されてしまい、康生は思わず舌打ちする。

 そして土の壁が破壊されると同時に、リングを覆っていた青い炎は再びリングを覆い尽くそうと動きだす。

「何か手はないかっ……」

 シロを攻撃しようとしても、青い炎に遮られてしまい、閉じこめようとしても土の壁程度じゃすぐに破壊されてしまう。

 そしてそう考えている間にも、青い炎は迫ってきているので、余計に康生の思考を乱してしまう。

「諦めて死んで。それしか方法はない」

 必死に悩む康生を、まるであざ笑うかのようにシロは淡々と述べる。

 しかし諦めるという選択肢は康生にはなかった。

 当然死にたくないという気持ちはあるとしても、それ以上と言ってもいいぐらいに康生は絶対にこんなところで死ぬことなど許されないのだ。

 何故ならば康生には帰りを待ってくれている人達がいる。

 エル、時雨さん、リナさん、上代琉生。その他にも地下都市で暮らす人たちやリナさん率いる異世界人の人達の為に康生は帰らなければならない。

 だからこそ、こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。

「もう諦めた?」

 険しい表情から一転し、何も感じさせない表情へと変化した康生を見てシロは諦めたのだと察する。

 しかし事実は違った。

「――すぅ」

 康生は短く、そして小さく息を吸い込む。

 そうすることで精神を統一させようとしているのだ。

 魔法を使う際にリリスに教わったこと。

 精神を統一すれば魔法の威力もそれに比例してあがるということだ。

 そして当然、異世界人であるシロはそんな康生の思惑にすぐに気づく。

「まだ諦めないの。分かった。なら容赦はしない」

 シロもまた己の心を落ち着かせるように、自身の表情をさらに殺す。

 そうすることでシロからのびる青い炎の威力は一気に加速する。

 そろそろリングを覆う青い炎が康生に迫ろうとしている。

 シロに近づきすぎると攻撃され、後退すると青い炎に焼かれる。

 そんな瀬戸際に立っていながらも康生はただ精神を統一させるためにじっと動かない。

「もう終わり」

 そうシロが口にする時には、リングを覆う青い炎が康生の元へと迫っていた。

 しかしその瞬間、

「リリス、ごめん」

 そう康生が口にした瞬間、康生はその場で一気に飛翔する。

 それはただのジャンプではなく、空中へ浮遊するためのものだ。

「……空が飛べたの」

 空に浮かぶ康生を見て、シロはわずかながらに表情を変化させる。

「そうだな」

 そう。康生には空中へ逃げるという選択肢があった。

 今まで何故それをしようとしなかったというと、単純に作戦がないままでは無駄に力を使うだけだと思ったからだった。

 そうして今、ギリギリのところで空中へ逃げた康生は、しっかりとシロを見据えて攻撃に移ろうとしていた。

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