第321話 備えて

「……どこ」

 白い煙幕が広がるコロシアム内でシロは視線をさまよわせて康生の姿を探す。

 当然白い煙幕の中でも、シロは康生の気配を感じそして行動に移そうとしている。

 シロにとっては視界が悪くなろうが、暗闇での暗殺に慣れている為、動けなくなることはないのだ。

 そしてシロには熱探索の魔法がある。

 だからこそいくら煙幕で逃れようとも、康生の場所は分かるのだ。

「そこっ」

 シロは康生の場所を正確に予測し、攻撃をくりだそうとする。

 だが、

「甘いっ!」

 シロの攻撃が繰り出されると同時に、康生は風の力を利用して速度をあげて場所を移動する。

 一瞬のうちに移動した姿を見てシロは一瞬の間、戸惑ってしまう。

 そして康生は、その戸惑いの時間を見てすぐに攻撃を繰り出す。

「くらえっ!」

 メルンと共に魔道具の技術を入れて、改良に改良を重ねた新たなグローブで、康生はシロに対して攻撃を行う。

 現在は、グローブには雷がまとっている。

 攻撃魔法として最強の雷の力は、今や康生にとって得意魔法の一つとなっていた。

「…………っ」

 シロはそんなわずかな隙をついて仕掛けてきた攻撃を、わずかな動作だけで回避する。

 そして回避されてしまった康生は、攻撃の動きのままシロに隙を見せてしまう。

「くっ……」

 まさか回避されると思っていなかった康生は、すぐさま体勢を立て直そうとする。

「甘いのはそっち」

 そうシロが反論すると共に、シロの手から熱い何かが出現する。

 それは炎魔法ではあるが、康生が知っているそれと系統が違った。

 何故ならばシロが使う炎魔法は、本来の色である赤色ではなく、青白く燃えさかっていたのだった。

「煙はっ……」

 一目でやばいと判断した康生はすぐに回避するために辺りを見渡す。

 幸いにはコロシアムにはまだ煙が充満しており、観客席からは康生の姿が見えないようだった。

 そのことを利用して、康生はその一瞬で『解放』の力を発動させる。

「っ……」

 攻撃が外れたことでシロは若干動揺しつつ、精神統一の訓練でも受けているのか、すぐに感情をコントロールしすぐさま康生を追いかけようとする。

 そうしている頃にはようやく煙も晴れ、観客からは二人の姿が見えるようになった。

 リリスに止められている以上、こんな大勢の観客の前では『解放』の力を見せることが出来ない康生。

 一瞬とはいえ、シロにその力を見せてしまったことを後悔しつつも、康生はさらなるシロの攻撃に備えて準備をしたのだった。

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