第320話 白い煙

「……殺される準備は出来た?」

 試合開始の合図がされた瞬間、真っ先に襲ってくると思っていた康生だったが、先に言葉をかけられて康生はわずかに戸惑う。

「別に俺は殺されないし、そもそもお前に負けない」

 だが康生も負けじと言葉で言い返す。

「…………」

 康生の言葉をどう受け取ったのかシロは、しばらく沈黙になる。

 一体どうしたのかと、康生は疑問に思いながらも警戒していると、

「――っ!」

 突如、背後から音が聞こえたかと思った瞬間、背中から針が飛んできたのを康生は察知した。

 咄嗟に体を動かし針を回避しようとした康生だったが、そのすぐあとにシロが動き出したのを康生は目撃する。

 試合はもう始まっているのだと、康生は再度自分に言い聞かせながらすぐさま戦闘態勢に入る。

「くらえっ!」

 針を回避する隙を狙おうとしたシロに対して、康生は臆する姿勢を見せずただただ反撃の攻撃に打って出た。

 本来の康生ならば、相手の出方を見てから戦闘に対する作戦を考えるのだが、今回だけは違った。

 それはシロと一度戦っている、というわけではなく純粋に警戒をしているからこそだった。

 どんな攻撃を仕掛けてくるか分からないからこそ、早めのうちに攻撃を仕掛けて勝負を終わらせようと康生は考えたのだ。

 それが何よりあの異世界人から事情を聞くためでもあったからだ。

 しかし、

「……甘い」

 康生がシロを迎え撃とうと放ったパンチだったが、まるでその動きが読まれているかのようにシロはパンチを最小限のギリギリの場所でよける。

「くっ……」

 攻撃をよけられた康生は、すぐに敵の攻撃に警戒して防御の姿勢をとろうとする。

 しかしそんな康生の動きにあわせるかのように、シロは防御が薄くなった場所を的確に攻撃してくる。

「…………す」

 全く聞き取れないほどの小さな声で呪文を唱えたシロは、手のひらから細い氷の針のようにものを生成し、それを康生の方へと飛ばす。

 針の威力がどれほどのものか分からない康生は、傷を負ってしまわないためにも全力でその攻撃を回避する。

「いけっ!」

 しかし回避すると同時に、片手で小さな雷の矢を生成し、それをシロに向かって投げつける。

「…………」

 だがシロは何事もないように雷の矢を回避し、すぐに康生との距離を開けようとする。

「くそっ!」

 これ以上相手のペースに飲まれると不味いと思った康生は、すぐに懐にある一つの白色の玉を取り出して投げつける。

「っ……」

 するとリング一帯に白い煙が広がり、シロは康生の姿を見失ったのだった。

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