第319話 合図
「一体なんだったんでしょうかね……」
「さぁ……」
異世界人があとにした控え室では、残った康生とメルンがお互い悩みながら顔をあわせる。
しかしあの異世界人は、今回の事件について何か知っていることは間違いないと判断した康生はすぐにでも追いかけようとする。
しかし、
「康生さん!試合はもう次ですよ!」
控え室を出て、あの異世界人を追いかけようとした康生だったが、そんな康生をメルンが呼び止める。
『次からはいよいよ準決勝戦です!』
康生が振り向くと、ちょうど大会の放送が鳴っていた。
「くそっ……。もう俺の順番か」
「康生さんの対戦相手が一人減りましたからね。その分早くなったんでしょう」
異世界人を追いに行きたい康生だが、試合に出ないといけないので足を止めざるを得ない。
なぜならば、ここで試合を棄権してしまえばリリスに対して迷惑をかけてしまうと考えたからだ。
「大丈夫です康生さん。あの人については私が詳しく調べておきます。なので康生さんは次の試合に集中して下さい」
メルンの負けられないことについて理解しているので、当然康生が追いかけようとするのを止める。
「でも……」
メルン一人にやらせるのが不安なのか、康生は少しだけためらうように視線をさまよわせる。
「――分かった。でも、くれぐれも無理はするなよ」
「分かってますよ!」
結局、試合の方を選んだ康生はすぐに控え室をでる。
(何。すぐに勝てばいいだけの話だ)
準決勝をすぐに終わらせて、すぐにメルンと合流してあの異世界人について調べようと考えを決めた康生。
しかし、その考えが甘かったことに康生は、後々になって知るのだった。
「それでは準決勝戦を始めます!対戦相手はエクスVSシロ!果たしてこの二人はどんな試合を見せてくれるのでしょうか!?」
お互いの選手がリングにあがると、観客を盛り上げるように、実況が声を張り上げた。
しかしそんな実況に相反するように観客からは、それぞれの反応が返ってきた。
だがそれも仕方のないこと。
康生は、一つ前の試合が不戦勝になっている。
だからこそ、観客の中には疑心暗鬼が立ちこめているのだろう。
しかしそれでも不思議なのが、シロに対する観客の反応だ。
シロと呼ばれた異世界人は、確かに康生を襲った人物であった。
実力もあるのにこうも、康生と似たような感情を向けられているのにいささか疑問を覚えた康生。
しかしすぐに対戦相手が、暗殺者をやっていることを思い出す。
だからこそ、観客の中の反応が悪いのは納得がいった。
「さぁ、それでは準決勝戦!スタートです!」
しかし、実況者はそれでもめげずに声を張り上げ、準決勝開始の合図を出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます