第318話 あと

「何を知っている?」

「あぁ?」

 康生の控え室で両者がにらみ合い、そして拳をぶつけた状態で康生が尋ねる。が、異世界人は何も答えようとはせずにただただ威圧的な態度で応戦する。

 だからこそ、康生はさらに怒りをあげて異世界人に対して応戦しようと次の攻撃を仕掛けようとする。

「ちょっと!何しているんですか!?」

 しかしその間際、拳が衝突する音でも聞こえたのか、慌てた様子でメルンが控え室に入ってきた。

 メルンは控え室に入るなり、両者の間に入って仲裁しようとする。

「試合でもないのに、こんなことをしてしまうと失格になってしまいますよ!」

 とメルンが声をあげる。

「ちっ、なら仕方ねぇな」

 そんなメルンの言葉を聞いた異世界人は、若干名残惜しそうにしながら拳をおろした。

「康生さんも!」

 そんな異世界人を見たメルンは、康生にも拳をさげるようにと言う。

 しかし康生は素直に拳を下げたものの、未だ異世界人に対して敵意をむき出しにする。

「一体どうしたんですか……?」

 そんな康生を流石に不自然と思ったメルンは思わず尋ねる。

「こいつが、行方不明事件に関与している」

 と康生は先ほど異世界人が見せた態度や言動を説明する。

「――そうですか」

 説明が終わるとメルンは頭の中で理解するように、一呼吸置く。

「あなたは本当に行方不明事件に関わっているんですか?」

 そして改めて、メルンは本人に対して事実確認をとろうとする。

「あぁ、だからさっきからそれは言ってるだろ?」

 と異世界人は一切隠す気を見せずに答える。

「――目的は一体なんですか?」

 だがメルンもまた同様に、感情を表に出すことはせずに、ただただ冷静に話を進める。

「目的?そんなものは一つに決まってる」

「なんだ?」

 目的と聞いて康生はすぐに異世界人にかみつく。

 だが異世界人はそんな康生の好戦的な態度を見て楽しむように表情を柔らかくする。

「そうだな……。じゃあこうしようじゃねぇか」

 そして何かを考えるような素振りを見せた異世界人は康生に向かって宣言する。

「お前が試合に勝ち進み。見事俺と決勝で戦って勝つことが出来たら教えてやるよ」

「なっ……?」

 決勝で勝つ。それを言ってきた異世界人に対して康生は、どれだけ自信過剰なのかと感じた。

 決勝で戦うと宣言している以上、この異世界人も決勝まで勝ち進めなければならないからだ。

「そんなのっ!」

 しかし今すぐにでも事情を聞きたいメルン。

 だがそんなメルンの言葉を無視するかのように異世界人は言うことは言ったといわんばかりに控え室をあとにしようとする。

「あぁ、そうだ」

 しかし扉から出る前に異世界人は一度立ち止まって振り返る。

「お前の次の対戦相手。あいつにだけは気をつけろよ?」

 そう言葉を残して、異世界人は控え室をあとにした。

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