第317話 口角

「え?棄権?」

 控え室にて、次の試合を待っていた康生だったが、その元に一つの知らせが届く。

「はい。どうやら次の対戦相手の姿が行方不明になったみたいで……」

 メルンは深刻な表情でさらに続ける。

「それで今、上王様はその対応に追われています。何しろ、自国で開催した大会にて行方不明者が出てしまいましたから。責任問題を問われているようです」

「リリスが……」

 となると、リリスをはめようとして今回、このような事件が起きたのではと康生は推測する。

「しかもその対戦相手が、康生さんの相手です。なおさら他の国は上王様を疑ってかかっているようで……」

「そうか……」

 リリスの国から出ている康生の対戦相手が行方不明になった。それもリリスの国で。

 ということになると、周りは当然リリスが裏で何かしたのではと疑うはずだった。

「とりあえず現在は行方不明者を全力で探しているみたいなので、次の試合まではしばらく時間がかかると思います」

「分かった。わざわざ教えてくれてありがとう」

 報告が終わると、メルンはすぐに控え室をあとにする。

 恐らく対応に追われているリリスを助けにいくのだろう。

 康生もすぐに助けていきたい身ではあるが、選手である以上、今回は何もすることが出来なかった。

「――じゃまするぜ」

 なんて考えていると、突然控え室の扉が開け放たれた。

 ノックも何もなしに入ってきた人物は、特に何も悪ぶれる様子も見せずにずかずかと部屋に入ってくる。

「お前は……」

 康生は控え室に入ってきた人物を見て思わず声をあげる。

「よぉ、元気にしてるか?」

 控え室に入ってきたのは、康生の次の試合で戦っていた武道派の異世界人だった。

「何か用か?」

 康生は試合直後に会っているため、多少の面識はあるものの、未だに警戒だけはといていない。

 現状、この武道大会に参加しているものは、全て裏で暗躍を行うとしていることは聞いている。

 だからこそ、康生は必要以上に他の国の選手に警戒を示しているのだ。

「そんな警戒しなくても、俺は突然襲ったりも、試合前に殺そうとしねぇよ」

「……どうして襲われたことを?それに殺す?」

 異世界人の口から放たれた単語に、康生はそれぞれ疑問の念を返した。

「あぁ?それはあれだよ。俺がその事件に関与しているからに決まってるだろ」

 瞬間、その言葉が離れた時。康生はほとんど無意識を体を動かし異世界人へ向かって飛びかかろうとした。

「おっ?やるか?」

 すると異世界人も嬉しそうに口角をあげながら康生に応戦するべく拳を構える。

 そしてそのわずか後には、控え室でお互いの拳がぶつかり合った。

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