第315話 背後

「……任務に失敗しました」

 異世界人の小さな少女が、膝を地面につけて報告をしている。

 ここはコロシアムから少し離れた場所で、その場には異世界人二人がいるだけだった。

「そうか……。でもまぁよい。どのみち今回は相手の力量をみるためだ」

 失敗した、少女は言っていたが相手の異世界人は大して憤ることなく淡々と述べる。

「それで何か成果はあったのか?」

「はい。ターゲットは魔力放出を使うことが出来ます」

「そうか魔力放出を……」

 少女からの報告を聞いた異世界人はしばらく悩むよう黙る。

 その様子を少女は何も言わずじっと待つ。

「それでは、大会まで出来る限りの対策を練っておけ。試合では確実にそのターゲットを殺せ。ちょうどお前と奴があたるのは近い。くれぐれも負けるようなことはするなよ?」

「了解」

 そう指示を出された少女は、返事を返すと共にその姿を一瞬のうちに消してしまう。

 対する異世界人はそのことについて何も驚く様子を見せずただ何も言わずにコロシアムへと向けて歩き出した。

「魔力放出を扱う少年か……。なるほど、これは面白くなりそうだ」




 少女が報告を終えてしばらく経ったあと、人通りが全くない暗い路地裏で一人の異世界人が倒れていた。

「や、やめてくれっ!!」

「…………」

 その異世界人は体から血を流しており、今にも息絶えそうな様子だった。

 そんな異世界人の目の前には小さな体の少女が一人。

「…………」

 やめてくれと必死に命乞いをする異世界人を身ながら、少女は何も表情を変化させることなくその手をあげて魔法を魔力を帯びさせる。

「ひっ!」

 瞬間異世界人は小さな悲鳴をあげる。

 少女の小さな手に握られた小型のナイフは、それだけは殺傷能力はとても低いものだ。

 しかし少女の魔法が加わり、その小型ナイフの切れ味が格段にあがっていることは少女しか知らないことだ。

 しかしそれでも、少女の存在そのものに畏怖の念を感じている異世界人はただナイフを構えられるだけで今にも失神してしまいそうなほど震え上がっている。

「動かないで。そしたら楽に死ねる」

 少女が短くそう言うと、ゆっくりとナイフを振り下ろした。

 そして次の瞬間にはもう路地裏からは一人の吐息がわずかに聞こえるだけだった。

「これですぐに試合が出来る……」

 そう呟いた少女はそのまま影に消えようとする。

 しかし、

「試合が始まる前に始末するとは、卑怯な手を使うじゃねぇか」

 少女の背後から一人の声が聞こえたのだった。

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