第314話 傷
「あっ、康生さんお疲れさまです〜!」
試合が終わり、控え室へと戻った康生を出迎えたのはメルンだった。
「あ、あぁ……」
「あれ?どうしたんですか?なんだか疲れているように見えますけど……?」
きっと1試合目がすぐに終わったから、康生が疲れていることを不自然に思ったのだろう。
康生はリリスの負担になるかもしれないと、先ほど殺されようとしていたことを言おうか迷っていた。
しかし自分以外も狙われているかもしれないという恐怖から、康生はすぐにメルンに事の顛末を聞かせたのだった。
「――そんなことが……」
話を聞いたメルンは何やら申告な表情で悩み始めた。
「これは犯人探しをした方がいいんじゃないのか?俺だけならともかく、リリス達も狙われているかもしれないし。それにあいつは確実に次は殺しにくると言ったから近いうちに……」
と暗殺者に対する対応策を考えていた康生だったが、メルンはすぐに康生を止めた。
「いえ。犯人は分かっているのでひとまず大丈夫です」
「え?」
メルンはあの現場にいなかったというのに、犯人が分かると言われ康生は困惑する。
「その人物は小柄でフードを被っていたんですよね?」
「あ、あぁ。それにわずかだけで白い髪が見えた」
メルンに聞かれ、戦闘中に目撃した暗殺者の情報を話す。
「だったら絶対にあいつです。心ない死神として呼ばれている冷酷な暗殺者でしょう」
「心ない死神?」
メルンから出た言葉に康生は思わず聞き返す。
「はい。そいつは色んな国の主要人物を暗殺しているという噂があるんです。あくまでこれは噂だけなので、当然犯人をその人物と決めつけることは出来ないんですが、それでもおそらく犯人だろうと様々な国で言われています」
その話を聞く限りでは、どうやらその暗殺者は今まで多くの異世界人を殺してきたようだった。
そしてそれを聞くと、なおさら皆が危ないと思った康生だったが、すぐにメルンの言葉に口を閉じてしまう。
「でも大丈夫です。そいつは今日、この武道大会に参加していますから、そこまで大きなことはしてこないでしょう」
そう。なんとその暗殺者はこの武道大会に参加しているということのようだった。
だからメルンはこれ以上は何もないだろうと、康生に言い聞かせてきた。
康生はいまいちしゃくぜんとしないまま、メルンの言葉を信じて次の自分の試合を待つことになった。
「あっ、どうやら二回戦もすぐに終わったみたいですよ」
話が一段落したところで、試合会場を映像から2試合目が終わったことを知らせる言葉が聞こえた。
康生が見ると、リングの上には先ほど試合終わりに出会った異世界人が、全く傷を負っていない状態でぴんぴん飛び跳ねていたのだった。
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