第313話 覚悟
「っ!」
それは一瞬の出来事だった。
試合が終わり、控え室へと戻ろうとした康生だったが、その最中に背後から首もとへナイフが突き刺されようとしていた。
完全に死角であり、また狙われているということを康生は気づいていなかった。
だから、
「危なっ!」
ナイフが首もとに刺さりそうになった瞬間に康生はその存在に気づき、すぐさま前方へ移動して、一瞬のうちに回避したのだった。
「……っ」
しかし康生を狙った存在はそれでも諦めようとはせずに、第二の攻撃を仕掛けようとする。
手元のナイフをもう一度構えて一気に康生までの距離を詰める。
「誰だお前はっ?」
しかしその程度の攻撃が今の康生に当たるわけもなく、康生は易々とナイフを避けてしまう。
しかし、
「かかった」
小さな声が聞こえたかと思うと、康生の背後から一本の槍が飛び出ているのを目撃した。
「くっ!」
どうやらナイフでの攻撃はフェイントとして使っていたようで、本命はいつのまにか壁に突き刺さっていた槍へ誘導しようとしていたことに康生は遅くながらも気づく。
「くそっ!」
だが康生はそれに気づくと同時に、風の力を使って速度をあげながら、素手で槍をへし折ってしまう。
槍は細いので当然跡形もなく崩れていった。
「甘い」
が、それも相手にとってはよまれていたことだった。
槍を壊すために力を使った康生に向かって、先ほどの動きとは明らかに速いスピードで、そいつはナイフを構えて康生に突進していった。
「なっ!?」
今までの相手のスピードが全力だと見誤っていた康生は、急接近してきた敵に対応が遅れてしまう。
そのため、今度こそ確実にナイフは康生の腹へと接近していく。
「はっ!」
「っ!」
ナイフが康生の腹に刺さるわずかな時間、康生は全身に力を込めて声をあげる。
すると相手はわずかに驚いたように声をもらして、背後へと飛ばされていってしまう。
「……リリスにはあまり使うなって言われたけど、まさかこんなところで使うことになるとは」
敵を飛ばした康生は、ため息まじりに警戒心を強める。
今の攻撃は、リリスが康生に対して使っていた魔力放出だ。
自身の魔力を純粋に体の外へ放出するその技は、単純ながらに敵を吹き飛ばすという面で非常に有用な技だった。
「……任務に失敗した。でもおもしろいものがみれた」
吹き飛ばされた相手は、小さくつぶやきながらもそう言って姿を消してしまう。
「――今度は絶対に殺すから覚悟しておいて」
最後にそう呟くのを聞いて、康生は完全に相手の姿を見失ってしまったのだった。
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