第312話 ナイフ

「――第一試合!勝者はエクスだー!」

 ザクスが倒れたのを見届けたのちに、コロシアム中に響くように、実況者が叫ぶ。

「あまりにも一瞬!リリス上王が連れてきたとされるエクスとは一体何者なのだろうか!?これはますますこの試合が楽しみになってきました!」

 康生の力を目の当たりにした、異世界人達はそれぞれ歓声をあげながら退場をするのを見守る。

 当然中には、リリスをよく思わない連中もいるが、その中でも康生の力を見て恐れを抱くものさえいた。

 それほど今の試合は圧倒的であった。

「――お前がエクスかっ」

 そうして歓声の元、康生が試合会場から出ると、それを待ち伏せしていたように一人の異世界人が現れた。

「お前は?」

 突然声をかけられ、少しだけ警戒の色を示しながら康生は尋ねる。

「はっ。そんな警戒しなくてもいいぜぇ。俺は別に試合以外で襲おうとは思ってないからよ!」

 そんな康生の警戒を読みとった異世界人は、自分が無害であることをいいながらゆっくりと近づく。

「そんな言葉程度で信用できると思っているのか?」

 だが康生は一歩近づいてくれば一歩下がり、確実に警戒の色を示す。

「へっ、ちがいねえな!まぁ、いいさ。俺はお前に一つ言っておくことがあるだけだからよ」

「言っておくこと?」

 康生の警戒を見て異世界人は近づくことをやめ、そして近づいてきた目的を話す。

「俺はお前に勝つ。ただそれだけをいいにきた」

 異世界人はまっすぐ指を康生に向け、堂々と勝利宣言をかます。

 康生はどう反応したらいいか分からずしばらく身動きがとれずにいると、異世界人は本当にそれだけ言って満足したようで康生の背後へと歩いていく。

「ただそれをいいにきただけだ。だから俺とやるまで負けるんじゃねぇぞ」

 異世界人はそれだけ言って去っていく。

 そしてその直後に背後で、歓声があがる。

 どうやら次の試合は今の異世界人がでるようだ。

 康生は少しの警戒心を抱きながらすぐに試合を観戦しようと足を進めていった。




「…………目標確認」

 そんな康生と異世界人との出会いを影で見守っていた人物が一人。

 全身を黒い服で包んだその少女は、まるで影に同化するように存在を隠していた。

 そしてその少女は、康生が進み出すのを見守ったのちに、こっそりと後をつけるように動きだす。

「…………」

 完璧に存在を隠しながら少女はそのまま康生の背後へと近づき、

「っ!」

 小さな小型ナイフを康生の首元に差し込んだのだった。

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