第311話 エクス

「本日ははるばる遠いところを集まっていただきありがとう!」

 拡声器のような魔道具を使って、声高々としゃべるリリス。

 円上の形をしたコロシアム内にリリスの声が響きわたる。

 それを各国の異世界人達が皆静かに耳を傾ける。

「これから行う大会は、国関係なく己の強さだけで勝ち上がってもらう!」

 そして武道大会の観客達も同じように耳を傾け、静かにリリスの話を伺う。

「さぁ!それでは只今から武道大会を開催する!」

 開会の軽い挨拶をしたリリス。

 その瞬間、コロシアム全体が大きな歓声があがった。

 今回の武道大会はそれだけ色んな人が待ちわびていたことが伺える。

 しかしそれは単に武道大会そのものに興奮を覚えているだけではない。

 裏では政治的なしがらみ、さらにはリリス達には関係のない国同士のいがらみなど様々な思惑が渦巻いている。

 そんな中開催された武道大会。

 当然色んな国、しいては異世界人達全ての注目を集めているといっても過言ではなかった。

「それでは早速第一回戦を始める!最初の試合は我の国からはエクス!そして対戦相手はリドールが治める国からザクスだ!」

 一回戦が始まるということで、コロシアム内にある二つ通路からそれぞれの人物が出てくる。

 リリスの国からはエクス――これは康生の身を隠すための偽名である――が出場する。

 そして康生とまず戦うのはザクスと呼ばれる異世界人。

「貴様がエクスかっ。ふっ!か細い体じゃねぇか!そんなんで俺に勝てると思ってるのか!?」

 試合が始まる前からザクスは康生に対して暴言をとばしていく。

 しかし康生はそれに一切反応することはなく、ただただ試合開始のコングが鳴るのを待つ。

「へっ、何も言い返してこねえとはひどい臆病者だな!」

 そしてザクスもまた、何も言ってこない康生を見てひたすら言葉を吐き続ける。

「それではまずは第一試合!スタートじゃ!」

 両者コロシアム内で向かい合う形となった上で試合は始まる。

 この武道大会のルールは何でもありのゲームである。つまり魔道具も武器も魔法も何もかも使用可能の無制限な試合だ。

 そういうこともあり、康生の対戦相手のザクスは全身を硬い魔道具の装備で覆っている。

「さぁそれじゃあさっさとニセ上王の国を敗退させるかっ!」

 そう叫んだザクスは試合開始と同時に康生に向かって拳を振り下ろす。

 当然その拳には炎魔法が加えられており、少しでも触れれば骨まで溶けてしまいそうなほどのものだ。

「遅い」

 しかし康生はそんな攻撃をいとも簡単に回避して一発、たった一発だけ相手の腹に攻撃をいれる。

 すると、

「ぐはっ……!」

 ザクスの体はゆっくりと地面に倒れていったのだった。

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