第309話 準備

「――武道大会の日程が決まった」

 ここはリリスの国から離れた場所にある、とある異世界人の国。

 リリスが主催する武道大会の日取りが決定した旨の通知を受け取った一人が言う。

「おっ!やっと決まった!」

 するとその報告を聞いた一人の異世界人が威勢良く立ち上がる。

 全身を硬い筋肉で覆ったその異世界人は、どうやらこの報告を心から待ちわびていたそうだ。

「いいか?くれぐれもあのニセ上王なんかの国に負けるなよ?」

「分かってるよ!」

 そんな威勢のいい異世界人に向かって、その場の一人が忠告をする。

 しかしそいつは特に緊張しているわけでもなく、楽観的に答える。

 それが何よりも自分を信用している証拠だとは、その場の誰もが認めているのでその態度について誰も何も言うことはなかった。

「さぁて、謎の男の実力。この目でしっかりと見定めさせてもらうぜ!」

 そう言ってひときわ吠えた異世界人は、一人部屋を抜け出して、自らの身体の鍛錬に励みにいった。

「――本当に大丈夫なんだろうな?敵の実力は密数だぞ?」

 異世界人が一人抜け出したことで、その場にいた一人がおもむろに口を開く。

「何、あいつの実力は皆も知っているだろう。たとえどんな敵だとしても、あいつならば負けないさ」

 そうしてその場に残ったもので、武道大会についての話し合いが進められる。




「――武道大会の日程だ」

 またあるとある異世界人の国でも、リリス主催の武道大会の日程が通達される。

「いいか?この大会決して負けるなよ。この大会に見事勝てばニセ上王を切り落とすきっかけにつながる」

「…………」

 武道大会の日程の通達を受けた異世界人は、ただただ静かに目をつぶる。

「いいかお前の使命は……」

 とそこまで話した瞬間、

「――殺す。私がやることはただそれだけ」

 鋭く、そして聞くものを死の恐怖に陥れてしまうほどの冷たさで短く言い放つ。

「そ、そうだ。分かってるならそれでいい」

 その言葉にあてられて異世界人も流石に恐怖を覚えたのか、それ以上は何も言うことなく部屋を立ち去った。

 そして一人の部屋に残った異世界人はただ目をつぶりながら。

「…………」

 ひたすらに精神を研ぎ澄ませているのだった。



 そんな各国に通達された武道大会。

 当然、各国からは選りすぐるの強者がそろってくる。

 試合自体はシンプルな戦いだが、その裏では政治的な思惑がうごめいている。

 しかし康生にはそのことはあえて深く知らせずに、リリス達はただただ戦うことに集中させていた。

 武道大会まで新たに魔法の訓練をした康生は、準備を整えて武道大会の日を迎えるのだった。

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