第302話 尻尾

「康生さん!その竜は強さは勿論ですが、皮膚が強固にできています!それこそがこの竜最大の武器なので気をつけてください!」

 背後からのメルンを指示を聞きながら、康生は頭の中で作戦を考える。

 目の前の竜の体の頑固さは先ほどの攻撃で嫌というほど分かった。

 全力ではなかったといえ、あれでダメージが入らなかったということは、今の攻撃を全力でやってもようやく擦り傷一つつけることしか出来ないだろうと考える。

「ぐぅぉっ!」

 そして康生が考えている間にも、当然目の前の竜は康生を狙って攻撃を仕掛けてくる。

 一度攻撃を仕掛けたということもあり、背後のメルンは狙われることはなく、竜は集中的に康生を狙う。

(集中……集中……)

 康生はひたすら神経を研ぎ澄ませながら、竜の攻撃を回避し続ける。

 その行動は単に逃げているというわけではなく、これは康生の戦闘方法の一つだ。

 まずは相手の攻撃を見極めてから攻撃を仕掛ける。

 今までの戦いでやってきたように、今回もひたすら敵の分析を行う。

「なるほど……」

 そうしてしばらく攻撃を回避していると、竜の攻撃パターンがなんとなく頭の中に思い描かれる。

 目の前の竜は主に攻撃力のある尻尾での攻撃をメインにし、それ以外は口から火の玉を吹き出し、さらにはその強固な皮膚を利用した体当たりを仕掛けてくる時もある。

 そんな単純な攻撃パターンを読みとった康生は、すぐに次の行動のことを考える。

「あの強固な皮膚なら針は通らないだろうな……」

 前回竜を倒した時に使った、麻痺毒が染み込んだ針を使おうかと考えていたがすぐにその考えを捨てる。

 そして同時にこれ以上逃げに徹してしまえば、背後のメルンにも攻撃が向かってしまうと危惧し、作戦のないまま竜に近づく。

 だがそれは決して無謀に挑もうとしているのではなく、単純な攻撃パターンが分かったからこそ、近距離でも回避することが出来ると踏んだのだろう。

「どれだけその皮膚が強固が見せてくれよ!」

 そして近距離にきたからこそ、ただ回避するのではなく、隙を見てはどの程度の硬さなのかをみる。

 それと同時にどこか弱点はないかを探る。

 そんな器用なことを同時に進めながら、倒すためのプランを考える康生。

 その姿はもはや、戦う策略家そのものだった。く竜の背後に移動する。

 一体どうするつもりなのかというと、

「尻尾を攻撃されるのはどうだっ!」

 そう言いながら、康生は無防備な尻尾の付け根部分を狙って拳を突きつける。

「ぐがぁっ!?」

 すると今まで動きが遅かった竜が、すぐに体を動かし背後の康生に向き合おうとする。

「なるほどそこが弱点かっ」

 しかしいくら竜が早く体を動かして、尻尾を隠そうとしても、康生相手には無駄なことだった。

 竜が反対側を向いた時には、すでに康生は竜の反対側に回っていたのだった。

「さぁ、こっから反撃させてもらうぞっ!」

 弱点が分かったということもあり、康生は風の力を全開に使って拳を尻尾の付け根にたたき込む。

「ぐがぁぁっ!!」

 すると竜は先ほど以上に叫び声をあげて暴れ出す。

「ほらほらっ!まだまだ!」

 そう言いながら康生は再度、尻尾の付け根に狙ってグローブをたたき込もうとする。

「康生危険ですよっ!」

 しかしその瞬間、背後からメルンの叫び声が聞こえると同時に、康生の視界が一気に真っ暗に染まる。

 一体何があったのかと。康生は考えるよりも先に体を背後へと移動させる。


 ドーンッ!


 それと同時に、康生の目の前で大きな音が響く。

 何が起こったのかと、康生はすぐに視線を前に向けると、先ほどまで康生がいた場所には巨大なクレーターが出来ていた。

「康生さん気をつけてください!今の攻撃で竜が怒り状態になりました!竜は怒ると攻撃も速度もけた違いにあがるのでさらに気をつけてください!」

 と背後から説明が入る。

 そしてそれを聞くと同時に、先ほどまでとは比べものにならないスピードで竜が康生の元へと飛んでくる。

「がぁぅっ!!」

 竜の叫び声が響きながら、康生の目の前には火の玉と同時に、竜の尻尾が襲ってきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る