第301話 器用
「康生さん!その竜は強さは勿論ですが、皮膚が強固にできています!それこそがこの竜最大の武器なので気をつけてください!」
背後からのメルンを指示を聞きながら、康生は頭の中で作戦を考える。
目の前の竜の体の頑固さは先ほどの攻撃で嫌というほど分かった。
全力ではなかったといえ、あれでダメージが入らなかったということは、今の攻撃を全力でやってもようやく擦り傷一つつけることしか出来ないだろうと考える。
「ぐぅぉっ!」
そして康生が考えている間にも、当然目の前の竜は康生を狙って攻撃を仕掛けてくる。
一度攻撃を仕掛けたということもあり、背後のメルンは狙われることはなく、竜は集中的に康生を狙う。
(集中……集中……)
康生はひたすら神経を研ぎ澄ませながら、竜の攻撃を回避し続ける。
その行動は単に逃げているというわけではなく、これは康生の戦闘方法の一つだ。
まずは相手の攻撃を見極めてから攻撃を仕掛ける。
今までの戦いでやってきたように、今回もひたすら敵の分析を行う。
「なるほど……」
そうしてしばらく攻撃を回避していると、竜の攻撃パターンがなんとなく頭の中に思い描かれる。
目の前の竜は主に攻撃力のある尻尾での攻撃をメインにし、それ以外は口から火の玉を吹き出し、さらにはその強固な皮膚を利用した体当たりを仕掛けてくる時もある。
そんな単純な攻撃パターンを読みとった康生は、すぐに次の行動のことを考える。
「あの強固な皮膚なら針は通らないだろうな……」
前回竜を倒した時に使った、麻痺毒が染み込んだ針を使おうかと考えていたがすぐにその考えを捨てる。
そして同時にこれ以上逃げに徹してしまえば、背後のメルンにも攻撃が向かってしまうと危惧し、作戦のないまま竜に近づく。
だがそれは決して無謀に挑もうとしているのではなく、単純な攻撃パターンが分かったからこそ、近距離でも回避することが出来ると踏んだのだろう。
「どれだけその皮膚が強固が見せてくれよ!」
そして近距離にきたからこそ、ただ回避するのではなく、隙を見てはどの程度の硬さなのかをみる。
それと同時にどこか弱点はないかを探る。
そんな器用なことを同時に進めながら、倒すためのプランを考える康生。
その姿はもはや、戦う策略家そのものだった。
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