第299話 序の口

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 康生は息を吐き出しながらも、膝に手をついて休憩する。

 というのも、メルンと共にきた秘密通路の中には罠が沢山仕掛けられてあったからだ。

 それらは数歩進む事に発動していき、さらには何重にも組み合わさって襲ってくるので、休む時間すらとれずにいた。

 そもそも緊急時の通路なのにどうしてそこまで罠を仕掛けてあるのかと疑問に思ったのでメルンに尋ねてみると、罠自体はリリスの部屋で解除できるというものだった。こうして外からこの通路を利用して入ってくる侵入者ように設置したものだという。

 その罠自体は主にメルンが設計したものだから、今回はここまで簡単に行くことができたが、もしメルンがいなかったと思うと、康生は恐怖で思考が停止してしまいそうだった。

「そろそろ大丈夫ですか?」

 そのメルンは一切疲れた表情をみせずに康生を待っていた。

 康生は外の世界に出たあとも、絶えず訓練は続けていたはずなのに、ここまで疲れていることを考えると、メルンの体力の底力に康生は若干のおそれを抱いた。

「ど、どうしてメルンはそんなにも疲れて、ないんだ?」

 だからか、たまらず康生は尋ねる。

「え?私はあれですよ。この罠をくぐり抜けるようの魔道具を装備していますから」

「――え?」

 メルンの口から出てきた言葉にたまらず康生は呆けたような声を発した。

「あれ?言ってなかったですか?この通路の存在を知っているのは私だけですから、何か緊急時用にこの通路を通るために上王様監修の元作ったんですよ」

 ということは、ここまで完璧に罠を回避してきたメルンの動きは、全て魔道具によるものだったというわけだったということだ。

「そ、そんなものがあるならっ」

 当然、そんな装備があるなら早めに渡してほしかったと康生は言おうとしたが、すぐにメルンに手に遮られる。

「申し訳ないですけど、この魔道具は一つしかないですよ。だから勘弁してください」

 ということだった。

「まぁ、でもこれで罠は終わりなんで安心してください」

「ということは……?」

 罠が終わったということは、遂にリリスの部屋にたどり着けたのかと、康生は期待を込めた目をメルンに向けるが、

「これから先は最後の部屋になります」

「最後の部屋?」

「はい。簡単に説明しますと、上王様の部屋に行く直前に設置された部屋です。そこを抜けると上王様の部屋に行けます」

 じゃあ早く行こう、と康生はすぐに立ち上がろうとしたが、寸前のところでメルンはさらなる情報を開示する。

「今まで罠は正直序の口でした。最後の部屋はこの秘密通路で一番の最難関の場所です。だからくれぐれも気をつけてくださいね」

 今までの罠が序の口と呼ばれ、康生はさらに気を引き締めることになったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る