第298話 堂々

「――着きましたよ」

 そう言って立ち止まると、目の前に扉があることに気づいた。

 その扉は格段特別な様子もなく、ただただ普通の扉といった感じだった。

「ここを通ればリリスの部屋に?」

「いえ違いますよ。この先は上王様のお部屋につながっている、今度はちゃんとお城にある隠し通路に出ます」

 城にある隠し通路。ということはいよいよ、罠が待っている場所につくのかと、康生は気持ちを切り替える。

「いいですか?元々この場所は上王様と私しか知りません。もし、今回の作戦がバレるとこの通路の存在が城にいる者に伝わってしまいます。そのリスクのことも考えてから進んでくださいね」

「分かってるよ」

 メルンの口調からも、このことが相当な秘密なのだと康生は感じた。

 そしてそれをメルンに教えてもらったことの意味を考えながらも、康生はメルンと共に扉に手をかける。

「いいですね。まず扉に入ったらすぐにしゃがんでください」

「え?しゃがむ?」

「はい。じゃあ行きますよ」

 突然言われて、戸惑いながらもメルンと共に扉に入った瞬間に言われたようにその場にしゃがむ。

 すると、


 ヒュッ。


 風を切る音と共に、康生とメルンの頭上を一本の矢が通る。

「こ、これは……?」

「これがこの隠し通路の罠です」

 罠と言われ、康生は少しだけ身震いする。

 魔法という規格外の存在があるからこそ、罠の発動タイミングが分からず、さらには発動したことさえ気づかないことさえありそうだったからだ。

 それがこの先沢山待っていると、ようやくメルンの言っていたことが分かったような気がした。

「ちなみに今のは毒の矢なので、当たった瞬間に死ぬと思ってくださいね」

「わ、分かった……」

 当たった瞬間、ということはあの小さな矢に致死量の毒が塗り込まれていたのだろう。

 そう考えると、これから先は即死系のトラップが続くのだと容易に想像できてしまい、康生は改めて身を引き締めたのだった。




「ここはジャンプです!」

「はいっ!」

 どれだけジャンプすればいいのか分からない康生は、とにかく全力で、天井すれすれまで飛び上がる。

 そしてその間に康生達が歩いていた通路が開き、落とし穴が出現する。

「そしてすぐに天井から離れてください!」

「えっ!?」

 天井すれすれまでジャンプしていたということもあり、メルンのようにすぐ下に下がることができなかった康生は体勢を崩す。

 しかしそのことが幸いして、天井付近の壁から出てくる槍をぎりぎりのところで回避することができた。

 そうしている間に、下の落とし穴がちょうど閉じ、冷や汗をかきながら康生は着地する。

「さぁ、もたもたしてないで早く行きますよ」

「う、うん……」

 思ったよりも壮絶な罠に若干の恐怖を覚えながら、その道を堂々と歩くメルンに康生は軽く尊敬の眼差しを向けるのであった。

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