第297話 異空間

「結構入り組んでるな……」

「そうですね。なんたってここは緊急時の秘密通路ですからね」

 緊急時の秘密通路と聞くと、昔の城なんかに作られていた脱出用の秘密通路のようなものと一緒なのかと結びつけた。

 やはり王政国家ということで、いつの時代も王の身が狙われるのは代わらないんだなと、康生はなんとなく思った。

「というか、この城の中によくもこんな大きな秘密通路を作ったね」

 この通路に入ってから、早十分ほど経ったと思われるが、その間に一切他の場所への扉や出口のようなものを見ていない。

 リリスの城は狭いとは言えないもだが、それでもここまでの通路が、城のどこに作られているのか康生は不思議で仕方なかった。

「あ?気になります?実はこれ魔道具を使った秘密通路でして」

「魔道具?」

 魔道具という言葉が出てきたものの、今まで歩いてきた通路には、魔法を使っているような痕跡は一切なかった。

 だからこそ、魔道具を使っていると言われも何も気づくことは出来なかった。

「なんていうんでしょうか――ここはいわゆる異空間のような場所でして」

「……異空間?」

 突然の聞き慣れない言葉に康生は思わず尋ね返す。

「う〜ん……。これは康生さんにはまだ言うなって上王様から言われたんですけど……」

 メルンの言葉を聞く限りでは、どうやら康生はまだ魔道具について完璧に教えてもらったわけではなさそうだ。

 しかもメルンはここを異空間といった。

 それを聞いた瞬間、康生は異世界人達がこちらに来た原因がそれと関係するのではないかと、頭の中で推理する。

 しかしそもそも異空間について何も知らない康生は、結局ただの空想上のものだと片づけた。

「じゃあ聞かない方がいいのか?」

「まぁ、そうしてくれるとありがたいですね。でも簡潔に説明するのであれば、ここは城の中ではなく、別の場所だっていうことです」

(ますます訳が分からなくなった……)

 簡潔な説明だからか、やはり康生は理解に苦しむ。

 そしてそんな様子をメルンも気づいているので、もどかしそうに付け加える。

「なんというか……。お城からこの通路にテレポートして、最終的にこの場所の扉からお城に戻れるって感じですね」

「なるほど……」

 確かに異空間だと言われると難しい話だったが、テレポートしていると聞けば簡単な話だった。

 まぁ、テレポートが出来るのならば、安全な場所へのテレポート手段さえあればこんな通路は必要ないと思ったが、それ以上は特に言及することなく、メルンの後をついていった。

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