第294話 派閥
「おかしいですね……」
護衛に追い返された康生とメルンは、一度研究所に戻ってきた。
「確かに、康生さんの言う通りに上王様に何かあったのかもしれません」
何も事情を知らされずに追い返されたこともあり、メルンもなにやらただならぬ気配を感じ取ったようだった。
康生自身も、何かおかしいなと思っているだけだったので、ここまで露骨に不自然さが出るとは思っていなかったようで、メルン同様に頭を悩ませていた。
「何かがあったんだろうね」
「十中八九そうでしょうけど、今この国では目立った事件は起きませんからね……」
研究者ではあるが、この国の情報についてはしっかりと仕入れているようで、新聞のようなものを読み返しながらメルンは言う。
康生も同じように、何かあったのではないかとそれらしい記事を探すも、該当しそうなものは一つもなく、ただただ頭を悩ませるだけだった。
「ということはこの城内で何か起こったのかもしませんね」
「城内で?」
「はい。実は――」
そう言ってメルンがこの国の状況について教えてくれる。
リリスが置かれている状況は、多少分かっていた康生だったが、メルンから語られる内容はそれとはまた違うものだった。
「この国にいる重鎮共の何割かは、上王様の失脚を狙っている者がいるんですよ」
「リリスの失脚を?」
そういう存在はいるとは分かっていた康生だったが、まさかそれが国の内部に、しかもリリスの身近にいることに驚く。
「その状況下で、康生さんがここに来たので……もしかするとそれ関係でなにやら問題が起こっているかもしれません」
「俺関係というと……もしかして俺が人間だとバレたのか?」
康生が関係しているなれば、この国に来る前にも起こったあの出来事だ。
もしまたそれが原因でリリスに迷惑をかけてしまっているというなれば、康生はなんとしてもそれを解決してあげたいと、リリスの助けになりたいと思った。
「いえ。康生さんが人間の件はひとまず安心していいと思います。なんたって、上王様しか使えない魔力放出を使えるのですから」
「じゃあどうして……?」
康生が人間ということで問題が起こっているのでなければ、一体どうして関係していると思うのか、さらに疑問が膨らむ。
「それはですね……。正体不明の康生さんがいきななりここに来て、しかも上王様と同等かそれ以上の力を持っているということで、各国からなんらかの干渉を受けている可能性が高いんですよ」
「干渉を?」
「はい。それでその機会を逃すまいと、上王様の失脚を狙っている派閥が動いているんじゃないかと思います」
前とは違う理由だが、それでもさらにリリスに迷惑をかけてしまっているかもしれないと知った康生は、いても立ってもいられず、リリスの部屋へと向かうことにしたのだった。
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