第293話 食事

「上王様が最近おかしい?」

「そうなんだよ」

 場所は研究所。

 無事に魔力解放の訓練を終えた康生は、しばらくの間、魔道具の開発に専念することとなった。

 そうして今日もまた康生とメルンで新たな魔道具を開発しようとしているのだが、その際に康生がリリスの様子がおかしいと相談したのだった。

「って言っても私は最近ずっとここに籠もってましたからね〜。具体的にはどんな感じなんですか?」

「それは……」

 具体的なことを聞かれると、康生は思わず口ごもってしまう。

 それは具体的におかしな部分をあげようとしても、あげられないからだ。

「おかしいっていうか、最近妙に忙しそうにしているというか、会う機会が減ったというか……」

 だから具体的なことをあげられず、口ごもりながらもあやふやな表現で説明する。

「上王様が忙しいのはいつものことじゃないんですか?」

「いや、そうなんだけど……」

 確かに上王という立場上、忙しくないわけがないことは康生も知っている。

 知ってはいるのだが、どうしても最近のリリスの様子がおかしく思えるのだった。

 それが言葉に出来ずに康生はひたすら頭を悩ませていた。

「じゃあ今日は久しぶりに一緒に食事にでも誘ってみましょうか。丁度新しい魔道具の説明もしたいと思っていましたので」

「そうだね」

 そんな康生の様子が気になったのか、メルンがリリスと食事をすることを提案してくる。

 実際メルンの言う通り、新たな魔道具開発は順調に進んでおり、一度報告しようとしていたことを康生は知っていたので、特に反対することなく受け入れた。

「さぁ、ということなので早く作業に取りかかりますよ!」

「分かったよ」

 そうして、康生とメルンは研究所で魔道具開発を進めた。




「え?今は会えない?」

 その日の晩、リリスと共に食事をとろうと護衛の者に話をしにいったのだが康生とメルン。

 しかし話をした瞬間に、即答で断られてしまった。

「どうしてなんですか?」

 たまらず康生は聞き返す。

「今は上王様は忙しい身だ。だから無理だ」

 特に理由も話すわけでもなく、ただ忙しいの一点張りで、護衛の者は康生達を追い払おうとする。

「むぅ〜……分かりましたよ。じゃあいつなら大丈夫なんですか?」

 流石に忙しい中、食事に誘うのは不味いと思ったのか、メルンはまた別の機会に誘うべく今後の予定を尋ねる。

「しばらくは無理だな。魔道具の報告なら私から代わりに行っておこう」

 とそれすらも断れてしまい、結局康生とメルンはリリスに会うことすら出来ずに追い払われてしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る