第292話 訓練所
「じゃあ行きますよ」
「あぁ」
訓練所の中央に康生は立ち、それをリリスが離れた場所で見守る。
「『解放』!」
康生が叫んだ瞬間、リリスの目から康生が消える。
咄嗟に視線を動かしたリリスだったが、訓練所の中に康生の姿を見つけることは出来なかった。
当然リリスはメルンが開発した魔道具を装着しているが、それでも康生の姿を目視することは出来ずにいた。
「どうですか?」
だがその瞬間に康生の声がどこからか聞こえる。
それだけで康生がこの場所にいるということになるが、やはり姿を確認出来ずにいた。
「完璧じゃ」
康生の言葉にリリスはただただその一言を呟くだけだった。
「やった」
その言葉を聞いて、少し嬉しそうな声をあげる康生。
しかしそれが気に入らなかったのか、リリスは少しだけ表情を曲げ、ゆっくりと訓練所の中を歩く。
「じゃがまだまだ甘いぞ」
そういうと同時にリリスは手に持っていた鞭を訓練所に放った。
「あっ」
その瞬間康生の声が聞こえたかと思えば、リリスが持つ鞭の先で康生が尻餅をついて地面に座っていたのだった。
「どうして……」
意図的に自分は捕まったのだと感じた康生は、すぐに疑問を口にした。
「簡単な話じゃ。貴様の足跡をおった。ただそれだけじゃ」
そう言ってリリスは微笑んだ。
「足跡か……」
康生も、リリスに指摘されて、さらに改善すべく思考をめぐらせる。
「じゃが、魔力放出は完璧にマスターした。後は魔力量をあげることと、他の魔法を教えるだけじゃ」
新たに思考を巡らせる康生を見て、少し呆れつつも、リリスは今後の方針を語る。
「魔力量をあげるには、毎日魔力を使うことじゃ。それについては毎日欠かさず行うようにするのじゃよ」
「分かってるよ」
「それで新たな魔法の件なんじゃが……」
と、ここでリリスが急に黙ってしまい、康生は疑問を浮かべながらリリスを見る。
「しばらくはメルンと共に新たな魔道具の開発に専念するがよい。魔法を教えるのはしばらく待ってもらう」
「え?わ、分かった」
魔道具開発に集中できるというのは、康生にとって嬉しいことだが、それと同時に魔法に関する訓練も重要なことだ。
それがしばらく休みになるということで、康生は少しの疑問を覚えたが、リリスにはリリスの事情がある。
だから康生は、その件について深く聞くことが出来なかった。
「それじゃあ我はもう行くからな。くれぐれも毎日の鍛錬を怠るではないぞ?」
リリスはそれだけ言って、訓練所を出て行ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます