第291話 罠
(――どうしてこんなことに)
温泉の隅っこで、極力周りを見ないようにしながら康生は考える。
そんな康生の背後では、リリスとメルンがなにやら楽しそうに温泉を満喫しているようだった。
「いや〜。やっぱり久しぶりの温泉はいいですね〜」
「そうじゃな」
さっきまでは康生も、二人ように落ち着いて温泉を満喫していたはずなのだが、今は焦りや焦燥感が大きかった。
それもそうだ。
いきなり温泉に女子が二人も入ってきたら男ならば誰だってこうなってしまう。
そして、一度出るタイミングを逃してしまった康生は、こうして隅っこで固まるしかなかったのだった。
「康生さんもそんな隅っこにいないでこっちに来て話しましょうよ〜!」
すると何も考えてないように、メルンが康生を呼ぶ。
「い、いや、ちょっと……」
でも当然康生は移動するわけにはいかない。
何より恥ずかしいし、それ以上に絶対に行ってはいけないという思いがあった。
そう。これはリリスが既成事実でも作ろうとしているのではないか、と考えたわけだ。
「なんじゃ恥ずかしがっておるのか?」
するとそんな康生を見て、リリスは笑いながら尋ねてくる。
「康生と我は結ばれる運命なんじゃから気にしなくてもいいんだぞ?」
「そうですよ〜。私も将来は愛人になるので気にしなくて結構です!」
「…………」
どうやら、リリスだけではなくメルンまでも狙っていると知り、康生はすぐに危険を感じ取った。
「お、俺はもう十分なんでそろそろあがりますね」
だからこそ、康生はすぐさま撤退しようとする。
「少しぐらいよかろう?」
だが、その瞬間にリリスが持ち込んでいた鞭が康生の足にのびた。
「ちょっ!なんでこんなものがっ!」
咄嗟に反応した康生はすぐに回避する。
「ちっ、よけられたか」
しかしリリスは康生の言葉に答えるわけでもなく、さらに鞭で捕まえようとしてくる。
「俺は、もうあがりますからっ!」
しかし康生はさらに鞭を回避し、そのまま脱衣所へと逃げていった。
「あ〜あ、逃げられちゃいましたね」
「まぁ、仕方ないさ」
康生がいなくなった温泉で、メルンとリリスが言葉を交わす。
「上王様にしては今の攻撃は甘かったですけど、いいんですか?」
「あぁ、別に構わん」
康生を捕まえようとしていた鞭が、本気ではないことを見破ったメルンだったが、リリスはなんてことないように答える。
「あやつにはもう一つ、罠を仕掛けておいたからな」
そう不敵に笑うリリスは、脱衣所に視線を向けたのだった。
「これは……」
リリスの罠など考えてもいなかった康生は、脱衣所で一人立っていた。自身の着替えの左右に置いてあった、リリスとメルンの着替えに目を奪われながら。
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