第290話 バスタオル
「ふぅ……」
丁度いい温度に保たれている、温泉にどっぷりと浸かりながら康生は息をこぼす。
およそ何ヶ月ぶりかになる風呂に、若干の感動を覚えつつも、体の疲れが一気にとれているような感覚を味わう。
まるでそのまま温泉とともに溶けてしまいそうなほどだった。
「――まさか、異世界に温泉があるなんて」
一息ついたところで、康生は素直な感想を呟く。
以前までいた地下都市はもちろん、風呂なんてものはなかった。
あの都長がいた建物にすら風呂はなかったところを見ると、どうやら今人間の世界では相当貴重なものになっていることだろう。
風呂自体は康生が引きこもっていた地下室にあったが、ここまで広いものではなかった。
だからこそ、疲れ切った体ということも相まって、康生は最高に温泉を堪能していた。
「お湯加減はどうじゃ?」
「全然大丈夫ですよ」
とリリスの声が聞こえてくる。
康生は特に何も考えず、思ったことをそのまま返したが、すぐにその声に違和感を覚えた。
「そうか。じゃあ我もそろそろ入ろうか」
「えっ?」
入る、という言葉が聞こえ、康生は思わず後ろを振り返ってしまう。
するとそこに立っていたのは、布一枚で体を隠したリリスが立っていた。
幼いながらも、女性としての膨らみは少し出てきているので、たとえバスタオル一枚でも、その姿は油断できないものだった。
「なんじゃ?我の体に何かついてるか?」
とまじまじと見過ぎたせいで、リリスは不思議がるように首を傾げる。
「い、いや!全然何もついてないです!」
そこでようやく、意識が戻った康生はすぐさま体を反対方向に向ける。
「そ、それよりどうしてここにリリスが!」
「そんなもの我も温泉に入るからにきまっておるじゃろう。この大浴場を康生一人に使うのはもったいないからな」
まるで何気ないことのように、リリスは淡々といいながらゆっくりと近づいてくる。
「じゃ、じゃあ俺があがりますんで!それまで待ってください!」
流石にこのままリリスと一緒に入ると不味いと思った康生はすぐに立ち上がり、リリスの姿をみないように急いで大浴場を出て行こうとする。
「せっかく大浴場が使えるんですから、もっと楽しみましょうよ〜」
と康生が目指した脱衣所からさらに声が聞こえ、思わず立ち止まる。
「もうあがるなんてもったいないですよ?」
そういいながら入ってきたのはメルンで、康生はその姿を見てまたもや固まってしまう。
元々メルンはスタイルがよく、豊満な体をしていたせいもあり、バスタオル一枚で隠しきれる体ではなかった。
ということで、体の所々が露わになっており、伊達に裸をみるよりか妖艶的な見た目になっていた。
「ど、どうしてメルンまでっ!」
とっさに腕で視界を覆う康生。
「私だけのけ者なんてずるいですからね!」
そう言ってメルンもリリスと同じように、なんでもないかのように振る舞いながらも温泉に入ろうとしたのだった。
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