第284話 魔道具
「あいつか……」
リリスが連れてきた謎の人物について問われ、リリスはわずかながらに緊張した表情になる。
というのも康生の存在については秘密であり、ここの誰にも話せることではないからだ。
だからこそ、都合のいい嘘を考えてきたのだが、信じてもらえるかどうか、リリスは少しだけ不安にかられていた。
「――あの者は我がスカウトしてきたのじゃ」
だがこのまま黙っていることもいかない以上、リリスはゆっくりと口を開いた。
「スカウト?」
「もしかして人間だというんじゃないだろうな?」
とあらふやな表現をしたせいで、その場の者達は皆一様に人間の存在を疑い、リリスに疑念の視線を向ける。
しかしこれもリリスの考えであり、人間という存在をちらつかせることによって、改めてこの場の者達が人間に対する感情を理解する。
「たわけが。人間など連れてくるわけがなかろうが。あの者は先の戦いにて取り残されていた仲間の一人じゃ。ここに戻る際、偶然見つけたので連れてきただけじゃ」
そうして考えていた嘘を話す。
果たしてこれで信じてくれるかどうかは不安だったリリスだが、会議にいる者達の表情からはとりあえず安心していいという結果が出た。
「じゃが今は療養中じゃ。いずれ皆にも紹介しよう」
その一言で会議は無事終了することとなった。
「はぁ……」
会議室を出たリリスは、誰もいないことを確認してからため息をはいた。
それほど、会議のでの空気は億劫で憂鬱なものだったのだろう。
「さて、康生は今頃何をしているじゃろうか」
リリスは研究所がある方を向きながら、康生の姿を思い浮かべたのだった。
「うぅ……。分かってはいたつもりですけど、やはり人間の技術力は相当なものですね……」
場所が変わって、ここは研究所。
メルンが拾ってきた人間のがらくたを一通り康生に見せた後、メルンはため息混じりにそうつぶやいたのだった。
「でも異世界人には魔法があるじゃないか。むしろこっちからしたら魔法の存在の方が大きいと思うよ」
フォローを入れるのではなく、康生は純粋に思ったことを言う。
確かに人の技術はすごいが、どれもエネルギーを使って初めて使えるものばかりだ。
その分、魔法は魔力さえあればなんでも出来るのだから、そちらの方が万能だと思うのは仕方のないことかもしれない。
「そうですかね?でも私たちの技術だと魔道具一つ作るのだって時間がかかりますし。その分、希少になってくるんですよ」
そんな康生の言葉に、メルンは何気なく呟いた。
「魔道具?」
しかしそこで康生が聞きなれない言葉が出てきて戸惑いの表情を浮かべたのだった。
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