第283話 寸前
「上王様。先日までの件、しっかりと報告してもらえるんでしょうね?」
「あぁ」
老けた異世界人に尋ねられたリリスは、陰鬱な表情のまま軽く答える。
現在リリスは、康生とメルンを研究所へ送ってからすぐに会議へと呼ばれた。
そうして会議室に入るや否や先日の件。
つまりリリスが人間がいる場所へ行き、自身と護衛のみで数日間滞在したことについてだ。
恐らくそのことについて問いただすためにこうして、会議が開かれたのだろう。
部屋を見渡せば、席についているのはどれもリリスの国の重鎮達だと思われる。
上王という立場でありながら、これだけの険悪のムードになっているということは、リリスは自身の国の中ですら煙たがれている――そんな様子が伝わってきた。
「まさかと思われるが、自身のお父上がしてきたことをしようとしているのではないだろうな?」
リリスの父。つまり先代の王がしようとしていたこと。人と異世界人の共存という政策をリリスがとろうとしていると疑っているようだった。
しかしリリスは本音はそうであれ、それをこの場でいうつもりなど毛頭なかった。
「当たり前じゃ。そんな無駄口を叩く暇があったら、早くこの会議を終わらせるからの」
と、しっかりと反論をしてリリスは自らの席につく。
「先日の件について私から言えることはただ一つだけじゃ」
自然とリリスに注目が集まる。
「リナ率いる我が軍が人間側に取り入ることに成功。今後とも見守っていくつもりじゃ。我はその経過を見てきた。ただそれだけじゃ」
取り入る。その言葉からは、こちらが人間を利用しようとしているように聞こえる。
本来ならば共存という形をとっているはずのリナさん達だが、どうやらリリスはその関係を隠すつもりらしい。
そして会議に集まった異世界人達は皆、それぞれ考えるように黙る。
「リナは人間と仲良くなろうとしているわけではないぞ。ただ利用しようとしているだけじゃ。本格的な未来のためにな」
あえて最後は目的をはぐらかすようにして、それぞれに勝手のいい都合を想像させる。
そうすることで、自身が人間界にいたことも、リナさんが裏切ったわけではないことも、皆に信じ込ませることが出来た。
「じゃが、この件はくれぐれもここだけの秘密じゃ」
最後に、この話を機密事項にすることでさらに信じ込ませるリリス。
「それじゃあ話はこれで終わりでいいな」
そうして完全に信じ込んだ皆を見て、リリスはすぐに席を立とうとする。
「あっ、待て!」
しかし寸前の所で止められる。
「まだ上王様が連れてきたあの者について何も聞いてないぞ」
そうして康生の存在について尋ねられたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます