第282話 奥

「ようこそ、ここが私の研究所です!」

 メルンに案内されるまま、康生は研究所と呼ばれる建物に入った。


 朝食の後、メルンの言葉――人の技術と異世界人の技術を融合させた研究――に少なからず、研究者の親を持つ康生は惹かれた。

 ということもあってなんとかリリスを説得した康生は、メルンの研究所へと足を運んだのだった。

「まぁ適当にくつろいでいてください」

 そう言ってメルンは早速何かを取りに研究所の奥へと進んでいった。

「……適当にって言っても」

 と、ため息をこぼしそうになりながら康生は研究所を見渡す。

 研究所の中はなにやらびっしり文字が書かれた書類が床一面に散らばっており、さらには本も高く積み上げられていた。

 綺麗に整頓すればいいのにと思ったが、その書類や本を入れる収納スペースですら物で溢れかえっているようだった。

 というわけでくつろごうにも、まず足の踏み場がないのであった。

「――まぁ、でも俺もよくAIに言われたな」

 そんな部屋の惨状を見渡した康生は、懐かしむようにつぶやいた。

 康生も地下室に籠もった当初は、よく部屋を汚していた。

 片づけもせずに、すぐ次のことをやろうとしてAIに怒られたことを思い出す。

 今、そのAIはエル達と共に地下都市で待っているが、最近声を聞いていなかったので妙に寂しい気持ちになった。

「あっ!おまたせました康生さん!」

 と懐かしい気持ちに浸っていると、研究所の奥からメルンが戻ってきた。

「まずはちょっとこれを見てください!」

 そう言って持ってきたのは扇風機――の土台の部分が失われたものだった。

「これは人間の土地で拾ったものなんですけど。恐らくこれは空を飛ぶための機械なんですよ!」

 そしてその羽を回しながら見当違いのことを言うメルン。

「でも壊れているので修理しようと思っているんですけど、康生さんはこれをご存じですか?」

「ふっ」

「康生さん?」

 真剣な表情で話すメルンを見てしまい康生は思わず笑ってしまう。

「いや、ごめん。あまりにも見当違いな発想をしてたからつい」

「えっ?ということはこれは空を飛ぶものじゃないんですか?」

「そうだよ。それは扇風機って言って、羽を回すことで体を涼しくさせる機械だよ」

「なるほど、なるほど……」

 扇風機の説明にメルンは興味深そうに何度も頷きながら聞き、何か紙にメモをとっている。

「じゃ、じゃあこれなんかは一体――」

 説明が終わると、まだ次があるのかメルンはさらに研究所の奥へと入っていった。

 奥からガシャガシャと音が聞こえ、康生は今日はこのまましばらく帰れそうにないと思ったのだった。

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