第279話 ベッド

「え、え〜と……。それでそちらの方は一体……」

 目の前では鞭で縛られた女が一人――というと何か卑猥な感じに聞こえてしまうが、実際その通りなのだから仕方がない。

 そしてその鞭で拘束しているのはリリス。

 護衛の者は再び部屋の外で待機という形になった。

 そんな状況で、初めて見るその異世界人に康生は戸惑いながらも説明を求める。

「失礼したな。こいつは我の国で研究者をやっている者じゃ」

「研究者?」

 研究者といえば康生の両親もそうなのだが、目の前のだらけきった格好を見みると、全く当てはまらなかった。

「あぁ?もしかして疑ってますか?でも大丈夫です!私は正真正銘の研究者ですよ!この国において私に適う者がいないと言われるほどすごいんですよ〜!」

 疑いの視線に気づいたのか、その女は自らの胸を大きく見せ、まるで自慢するかのように威張った。

「調子にのるな!それと康生の前でそんな格好をするではない!康生は男なんじゃからな」

「そのくらい分かってますよ〜?だから尚更じゃないですか上王様〜」

「なんじゃと?」

 研究者の言葉にリリスは眉を潜める。

 康生はそんな二人の様子を見て、ただならぬ気配を感じ取り、逃げ出してしまいそうになるが、ここから動けない以上見守るしかなった。

「この人が康生さんなんですよね?人間でありながら魔法が使えるっていう。だったら当然惚れさるに決まってるじゃないですか〜。そうしたらいつでも体を調べることが出来るんですから!」

 そういう研究者の目が、貪欲そうに見えて康生は思わず身震いする。

「やめいっ!康生は我と結ばれる予定なのじゃ。手を出すことは許さんぞ!」

「あれ〜?でもこの子の体を調べていいんですよね?あぁ、なんだったら私は別に愛人でもいいですよ?」

「そうか……愛人か。確かにそれだったら……」

 と研究者の言葉にリリスは深く考え始めたので康生は慌てて止める。

「ちょ、ちょっと!そもそも俺はリリスとそういう関係になる気はないから!それにそちらの方とも絶対にないですから!」

 これ以上話がややこしくなる前に康生ははっきりと言った。

「うぅ〜ん。そんなはっきりと言われると私の乙女心が傷ついちゃいますね〜」

「あっ、すいません……」

 確かにあまりにもはっきりいいすぎたと康生は少しだけ反省する。

「……この子あれですね。可愛い性格してるじゃないですか。上王様、私本当に愛人でもいいんで少しもらってもいいですか?」

「だ、だから!」

 少し反省したが、どうやら先ほどの発言はそれほど本気ではなかったようだった。康生はだまされていたのだ。

「はぁ……。とりあえず今日はもう遅い。話は明日になってからするぞ」

「そうですね……」

 確かに時間を確認するともう遅い時刻だった。

 リリスも城に帰ってきて仕事が忙しそうだったので、すぐに休んだ方がいいだろう。

 そう思って解散しようとしていたが、

「あっ、じゃあ私この子と一緒に寝るんで、上王様お休みなさ〜い」

 しかし研究者は康生と同じベッドに入ろうとする。

「ほらいくぞ!」

「あぁー!ちょっとー!」

 しかし研究者は未だ鞭で縛られているので、無理矢理連れて行かれてしまった。

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