第277話 侵入

「すごいですね……」

 見渡す限りの自然に包まれた光景を見て、康生は思わず呟く。

「そうだな。人間の土地にはもうこんな自然は残っていないからな」

 と、リリスは少しだけ寂しそうに言葉をもらした。

 浮かべた表情の意味が分からない康生は、詳しく聞くことも出来ず、リリス達の後をついていく。

 森に入ると、外から見ていたように幻想的な自然が広がっていた。

 大きな獣や、中には小さな獣もいたが、どれも襲ってくる事はなかった。

 それどころか、向こうから寄りそってくる友好的な獣さえもいたので、康生は少しだけ戸惑った。

 そうして森の中を歩く事数分。

 いよいよリリスの国が見えてきた。

 国の入り口は小さな大きな門が構えており、そこから街の中を囲うように大きな壁が張り巡らされていた。

 侵入者を防ぐためなのか、それとも獣が襲ってくるからなのか、理由は分からないがとにかく防衛に観点からいえばとても立派なものだった。

「これからは獣車――人間界でいえば馬車と呼ばれているようなものに乗って移動する。だがフードは外すなよ?」

「分かってるって」

 国の中に入る前に、入り口の近くにあった獣車にリリスと護衛達と共に乗る。

 中には窓があったか、中の姿が見えないようにカーテンがしてあり、国の様子は全く分からなかった。

「我の城についたらひとまずは部屋の中で待機してもらう」

 道中、揺られる車内でリリスは今後のことをはなす。

「恐らく今日一日は部屋で待機してもらうと思うが、くれぐれも勝手に外に出たり、変なことをしたりするなよ?」

「大丈夫だって」

 釘を刺すように言ってくるリリスに康生は安心させるように何度も頷いた。

 それでも前科があるからか、リリスは何度も部屋から出ないことを注意してきた。

 向こうの町で騒ぎを起こしてしまったからか、康生は何も言い返すことが出来ず、ただただ頷くだけだった。


 そうしている間に、リリスが住んでいる城についたようで、獣車が止まった。

 そこからは護衛の二人に挟まれるような形で、決して姿を見せないように部屋まで案内された。

 途中リリスは仕事があると言って別れていった。

 部屋につくと扉の前に護衛が一人ついてくれるようで、何か用事があればすぐに言うように言われた。

 その待遇はまるで監禁でもさせられているかのように思ったが、すぐに仕方のないことだと康生は自身に言い聞かせた。

 そうして時刻は夜になり、部屋にあったシャワーで体を洗い、そのまま眠ろうとベッドに入る康生。

 今朝の出来事で疲れたいたのか、今日はすぐに眠りにつくことが出来たようだ。


「――なるほど、この子がそうですか」


 しかし康生が眠りにつく頃、部屋の扉がゆっくりとあき、外から何者かが侵入してきたのだった。

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