第274話 罪

「そんな……馬鹿な……!」

 康生が魔法を使ったという事実を知らされ目の前の男は急にうろたえる。

 恐らく康生が人間であるという自信があったのだろう。

 でないと上王様相手にこんな事は出来ない。

「さて、どうする?」

 そんな男に対し、リリスはさらに高圧的な態度で返す。

「ぐっ!こうなってしまった以上はどうしようもない!やろうども!何がなんでも録音した音声を奪い返せ!」

 せめて自身が人間と仲良くしようとしている事がバレるのを防ぎたかったのか、リリスめがけて部下達を向かわせる。

「ここは俺に任せてくれませんか?こうなってしまったのも俺の責任ですし」

「好きにするがよい」

 四方八方から向かってくる敵に対し、康生は一人で応戦する旨をリリスに伝える。

 リリスも康生も実力を知っているからか、特に何も言うわけでもなく許可する。

「はっ!一人で何ができるというのだ!」

 康生達の会話が聞こえていたのか、男は康生一人で戦う事をただあざ笑う。

「いいだろう!こうなってしまったのは貴様の責任だ!その罪は償ってもらうぞ!」

 そう男が言うと周りの敵は全て康生に向かって襲いかかる。

 至近距離から攻撃しようとする者と、遠距離から隙を狙って魔法を放とうとする者の二種類に別れた。

 しかし康生は焦る事なく、ゆっくりと息を吐き心を落ち着かせる。

 そして、

「いきますっ!」

 近くに来ていた異世界人達をあっという間に倒す康生。

 これは解放の力ではなく、風の力を使ったものだ。

 そして遠くにいる敵に対しては、腕に仕込んでいた針を出し、また足りない分は特製のペンを使って針を飛ばして戦闘不能にさせる。

 その時間わずか数秒。

「はっ……?」

 男は目の前で何が起こったのか一瞬分からずにいた。

 というよりかは現実を見ようとしていない様子だった。

「さて」

 康生が全員を倒したのを見計らってリリスはまっすぐ進み、男の前までいく。

「上王である我に刃向かった罪は、重いぞ?」

 先ほどの衝撃で思わず尻餅をついた男に向かってリリスは不敵に微笑んだのだった。


「…………」


 そんな中、康生達の背後で音を殺して歩く者が二人。

「――あぁ。そうじゃ」

 しかしリリスはその二人に聞こえるように大きく声をあげる。

「我の大事な人をさらった罪も同じように重いからな?」

 そうして護衛二人が動き、康生をさらった二人の異世界人も捕らえられてしまったのだった。

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