第272話 簡単です

「お〜、怖い怖い」

 しかしリリスの脅しにも関わらず、そいつはただ笑みを浮かべるだけだった。

 異世界人であれば、リリスの強さは知っているはず。

 なのにそれほど余裕となれば、そのリリスに対抗できる手段を持っているという事だ。

「では一応質問させていただきます」

 しかしそいつは攻撃を仕掛けるわけでなく、文字通り質問を投げかけてくる。

「そのフードの人物は――もしかして人間なんじゃないんですか?」

「……っ!」

 人間と言われ、康生は咄嗟に反応してしまう。

 しかし幸いな事に、フードを深くかぶって顔を隠していたおかげで反応がバレずにすむ。

 そしてリリス達はというと、全く何も表情に出すことなくじっと正面を向いていた。

「人間であるわけがないじゃろう」

「やはりそうですか」

 すぐに嘘をついたリリスだったが、そいつは何やら含み笑いを浮かべるだけだった。

 そこまでの自信が一体どこから湧いてきているのか、康生は全く見当もつかずにいた。

 だが次の瞬間、その男から驚愕の事実が話される。

「――でも先ほどその人物を連れて行った際に、人間だったと証言を得ていますがそれについてはどうお考えで?」

 その男は、リリス達に聞くまでもなく康生が人間である事を知っていたいのだ。

 だからこそ、あれだけ余裕な態度をとっていたのだ。

「……っ」

 流石に確認されたとなれば、リリスはさらに嘘をつくことが出来ない。

 これについては康生の失態だ。

 易々と連れて行かれたせいで、この状況に陥ってしまったのだ。

 康生は自責の念にかられながらも、どうする事も出来ない事を恨む。

「――その反応。なるほど、やはりその人物は人間だったのですね」

「貴様っ……」

 だが男が言った言葉に、リリスはすぐにはめられたのだと気づいた。

 康生がさらわれていた期間の出来事が不明だったからこそ、リリスははめられてしまったのだ。

「なるほど、なるほど。人間嫌いを自称していた上王様が人間を連れて帰ってきたのですか。ご自身のお父上様の考えをあれだけ侮辱しておいて。さらには自身の国民までだましていたと」

「ぐっ……」

 完全にはめられてしまい、リリスはただ苦い顔をするだけだった。

 このままいけば確実にばらされてしまう。

 だがいくら考えようとも、この状況を打開する手段を思いつく事は出来ない。

「……何が望みだ」

 しばらくの間黙っていたリリスだったが、やがて男に向かってまっすぐ捕らえる。

「望み?そんなものは簡単です」

 リリスの苦しそうな表情を見たからか、男は一層醜悪な笑みを浮かべた。

 それを見た康生達は、次の言葉がどんなものであろうと覚悟して聞く準備を整えた。

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