第270話 路地裏

 ぷすっ。


 康生は手首に忍ばせていた針を使って、袋に小さな穴を開けた。

 わずかに見えるようになった外から、路地裏のような場所にいることに気づく。

 この袋は魔法は効かないようだが、どうやら物理的には大丈夫なようだった。

 なので一気に袋を破って逃げ出す事にする。

 だがその最中に姿を見えないようにしなければならないため、わずかながら隙をつかなければならない。

(あれがいいな……)

 わずかに開けた穴から見えた先には木の箱が置いてあった。

 すぐ様隙を作る方法を思いついた康生は、箱を狙って再度針を放つ。

「んっ?なんだ?」

 針が当たると箱が音を立てて傷が入った。

 異世界人がその小さな音に気づいたかと思った瞬間、康生はその隙を狙って袋を破る。

「なっ!?」

 視線を箱に向けている事を確認した康生は、視線がこちらに向くよりも前に「解放」の力を使い瞬時に姿を隠す所へ移動する。

 その際に煙玉さえも使い確実に姿を見えないようにする。

「逃げられました!?」

「くそっ!まだ近くにいるはずだ!探せ!」

「了解っす!」

 どうやら姿を見られずに隠れる事が出来たようだ。

 だが、

「あそこに熱源反応ありっす!」

「あそこか!よくやった!」

(なっ!?)

 上手く隠れられた康生だったが、異世界人達はすぐに康生の居場所を暴いた。

 熱源反応と言っていたが、どうやら相手は魔法を使って熱源を調べたのだろう。

 だからこそ未だ煙りが残る空間で、康生がいる場所を的確に分かったのだ。

(だったら……!)

 こちらへ異世界人がまっすぐ向かってくる前に康生はすぐさま魔力を込める。

(いけっ!)

 異世界人達がこちらへ来るより先に康生は魔法を放つ。

「なっ!?」

「どうした!?」

 康生が魔法を放つと同時に、異世界人の一人が驚いたように視線をさまよわせた。

「熱源反応が一気に増えましたっ!」

「な、なんだと!?数は何人だ!」

「数は二つです!それぞれ違う方向へ行きました!」

「なるほど増援!片っぽは俺が追うからもう片っぽは頼むぞ!」

「はいっす!」

 そうして異世界人達二人はそれぞれ違う方向へと走っていった。

「――ふぅ……助かった」

 完全に姿が見えなくなった事を確認した康生はため息を吐いた。

「即興でやってみたけと上手くいくもんだな」

 そういいながら康生は先ほどと同様の魔法を、手のひらの上で小さく再現してみせる。

 すると康生の手のひらに火が浮かび、それが形を変えて人の形に変わっていく。

 どうやら康生はこの火の人形をそれぞれ別方向へ行かせたのだ。

 そしてそれと同時に周囲に展開していた氷の魔法を解除する。

 こちらは自身の熱反応をなくすためだったのだろう。

「――さて。ここからどうようか……」

 リリス達と別れたしまった康生は、一人路地裏で空を見上げたのだった。

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