第267話 宿
――康生、お前はこの世界にとっての希望じゃ。
(…………希望、か)
リリスに言われた言葉を心の中で繰り返し言いながら康生は布団に潜っていた。
あれから護衛の人達と合流し、そのままベッドで休息をとることにした。
本来ならリリスは別の場所で寝るべきだろうが、事情が事情のために同じ部屋で泊まることになった。
康生もあまりそういうのは気にしないが、リリスが康生のことを狙っていることを思いだし少しだけ警戒をしていたが、リリスからそんな様子は全く感じられなかったので安心する。
そういうことで部屋の明かりを消し、一人ベッドに潜った康生だったが、先ほどから全く寝付けずにいた。
リリスから聞いたいたい康生だったが、明日は朝早くに出発するとリリスに言われていた。
本来ならこんなにも夜遅くまで考え事をしている暇はないのだ。
自分自身について知ったからこそ、康生はさらになる修行の為に精を出そうと決め、重い瞼を閉じたのだった。
「上王様が帰ってきたんだってな」
「あぁ。間違いねえよ」
薄暗い明かりに灯された部屋。
椅子と机があるだけの簡素な部屋に、二人の異世界人が座ってた。
「それでフードの奴については何か分かったのか?」
「いや、何も分からなかった。フードをめくろうとしたが、そいつに止められてしまったよ。しかもその時に掴まれた腕がこれだ」
そう言って異世界人の一人が腕を見せる。
「ほぅ……」
そこには赤い手のあとがくっきりと残っていた。
「どうやらただ者じゃねぇことは確かだな」
「あぁ。あいつの力はとんでもなかったよ」
腕を引っ込めた異世界人、まだ痛みが残っているようで丁重に動かしていた。
「そんな奴が上王様と共にいたのか……。しかもその正体を必死に隠そうとしている……」
やがてもう片方の異世界人が何やら考え込むように目を閉じる。
「おい。すぐに上王様が泊まっている宿を調べろ。タイミングを見計らってそのフードの奴をさらうぞ」
「へっへっ、そうこなくちゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます