第265話 憶測

「一体こいつは誰なんでしょうね〜?」

 リリスが嫌がる姿を見て、明らかに楽しんでいるそいつはリリスの抑制の声も聞かずに康生のフードに手をかけた。

「――やめてください」

「なっ!」

 フードがめくられようとした瞬間、康生はそいつの手を握り止めさせる。

 そしてその後すぐに手を払い、リリスの元へと移動する。

「――大丈夫か?」

「はい」

 極力しゃべらないようにしながらも、顔を隠して護衛の二人の陰へと隠れる康生。

「おいおい。随分としつけのなってない奴だな?それだけ甘やかすという事はどれだけ大事な奴なんだろうな?」

 結果的にフードをとられる事はなかったが、それが逆に康生という存在を目立たせることになった。

 しかし顔を見られてしまえば一発アウトという状況なので仕方ない事だと康生は割り切る。

「お前には関係のない事じゃ」

 リリスは最後に一言、そういって再び足を進める。

 背後からはさらに声が聞こえたが、康生もリリスも何も反応せずにひたすら足を進めた。




「全く!しつけのなってないのはどっちじゃっ!」

 部屋に入るなりリリスは叫びながらベッドにダイブする。

 本来ならばリリスの国に行く予定だったが、いらぬ邪魔が入ったせいで、急遽近くの宿に泊まる事になった。

 どうやら護衛達が先ほどの出来事の印象操作をするようで、残りの康生とリリスはこうして一足先に休むことになった。

「ご、ごめん。俺がちゃんとしていれば……」

 元々康生がリリスの後をついて行っていなかった事が原因だったことを考え、康生はすぐに謝罪の言葉を述べる。

「別に気にするな。これは康生のせいではない」

 しかしリリスはすぐに否定する。

「……元々は我の威厳がないのが悪いのじゃ」

 最後にボソリと呟いた言葉を康生は聞き逃さなかった。

 上王様という立場であるリリスに対して、先ほどの態度は明らかに異質だった。

 しかしここの街の人々はそれに対して嫌悪感や嫌な感情を浮かべてはいなかった。

 そのことが康生の中でひっかかった。

「――すまないな」

 そんな康生の気持ちを読みとったのか、リリスはベッドから起きあがると康生に謝罪の言葉を述べる。

「康生には一度話しておかなければならなかったな」

「話……ですか?」

「そうじゃ。我の国について――いや、我の話についてな」

 リリスの話。

 聞くタイミングも無かったこともあって、確かに康生はリリスのことについて何も知らなかった。

 そして先ほどの出来事があり、康生は様々な憶測をしながらリリスの話を耳を傾けた。

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