第264話 フード
(すごい……)
異世界人達の街へ入った康生は、フードから顔が出ないよう気をつけながらも街の景色を眺める。
遠くから見た時は高い建物しか見えなかったので分からなかったが、街の中はとても綺麗な所だった。
まるでファンタジーの世界にでも迷いこんだかのような錯覚に陥る。
道には街灯の役割を果たすように光の玉が浮いており、その道を歩く者達は皆異形の形をしている人のみだ。
さらには街の至る所から不思議な形をした植物が生えており、見ているだけでどこか和むようなそんな気がしてきた。
「こら。我から離れるなと言ったじゃろ」
街の光景に目を奪われていた康生は、いつの間にか先に進んでいたリリスに呼ばれる。
「す、すいませんっ」
「こらっ。声も出すなといったじゃろうが!」
リリスに注意され、慌てて駆けつけるが、その際に声を出してさらに注意される。
謝る事も出来ずに、ただただ頭を下げながら康生はリリスの近くへと行く。
「ふんっ、全く……」
軽く悪態をつきながらもリリスは護衛の二人を壁にするようにして街の中を進む。
「……?」
リリスの近くに来て気づいたのだが、街を行く者達の視線が一様にリリスに集まっている事に気づく。
だからこそリリスは護衛の二人を壁にするようにして歩いている事に気づいたのだが、それもあまり意味をなしていないようだった。
やはりリリスは上王様だから皆の視線を集めるのだろうと考えていた康生だったが、それにしては向けられる視線が穏やかなものではないという事に気づく。
そういえば康生はリリスの国の事情を待ってく聞いていなかった。
どんな国で、リリスはどのように上王様をやっているのか。
きっとその事情が、今の状況の意味するものだろうと康生は気づく。
気づくが、康生は何も出来ない。
だからリリスに言われた通りに、目立たぬように静かについて行くことしか出来なかった。
「――おぉおぉ。誰かと思えば上王様じゃないですか?」
しかしそんな時、護衛の二人を避けるようにして一人の異世界人が近づいてくる。
「貴様上王様に向かってそんな言葉遣いをっ!」
「いい。無視すればよいのじゃ」
護衛の者はすぐさまそいつを排除しようとするが、リリスは別段反応を返すわけでもなく、歩きだす。
「あぁー。やっぱ上王様は冷たいですねー。そんなんだからあなたの国民も誰もついていこうとしないんですよ」
「…………」
明らかに侮辱するような言い方だったが、それでもリリスは無視して歩く。
護衛の者も、そんなリリスに習って特に何もするわけでもなく立ち去ろうとする。
当然康生もそれにあわせようとするが、
「ん?なんですかこいつは。フードを被ってまるで正体を隠しているみたいな」
「やめろっ!」
その瞬間康生のフードに手がかけられる。
それを見たリリスも護衛の二人も、すぐに対処しようとするが間に合いそうになかった。
「一体こいつは誰なんでしょうね〜?」
そいつはリリスの焦った反応を見ながら、楽しそうに康生のフードに手をかけたのだった。
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