第262話 土地

「行っちゃったね……」

 康生の姿が見えなくなったしまったのを見計らって、エルがため息混じりに呟いた。

「そうだな……」

 それと同時に時雨さんもまたため息混じりに呟く。

 康生の前では笑っていた二人も、やはり心の中では寂しい思いだったのだろう。

 だけど二人は最後まで康生を引き留めようとはしなかった。

 それが康生の為だと信じているからだ。

「――さて、我々も行こうか」

 状況を見計らってリナさんが地下都市に戻るように言う。

「そうだね」

「あぁ。私達も頑張らないとな」

 康生を見送った二人は、どうやらそれぞれの思いと決意を胸に抱いたようだ。

 康生がいなくなったこの地下都市での不安にかられながらも、二人は強く前を進もうとしていた。

「それにしても上代琉生も一緒に見送ってくれればよかったのに」

「確かにそうだな」

 そんな中、見送りの場に上代琉生がいなくなった事に少しだけ不満を覚えていたエルと時雨さん。

 少しの間ぐらい顔を出せなかったものかと考えているようだ。

「あいつはそんな事をしている暇はないそうだぞ」

 しかしそんな二人に対し、リナさんがフォローを入れる。

「あいつは今この時も、未来の為を思って行動している。康生と違ってあいつが働くべき場面は戦闘以外の全ての場面だからな」

 今も行動している。

 その言葉を聞き、エル達は少しだけ反省する。

 上代琉生は表には決して出さないが、陰ながらとてつもない努力をしている。

 エル達はその事について十分知っているはずだった。

 一番理解しているリナさんだからこそ、上代琉生の努力を分かっているのだろう。

 そして同時に、その努力がこの三人の胸を熱くさせる。

 そうして康生がいなくなった地下都市で、それぞれが思いを掲げて必死に頑張ろうとしていた。




「――もうそろそろで着くぞ」

 康生が地下都市を出発してから数日が経った頃。

 足を進めていたリリスが立ち止まった。

「結構近い場所にあったんですね」

 地下都市から歩いて数日しか経ってない所に異世界人の国があるという事は、以外とかなり近い距離にあるという事だ。

 その事に関心しながらも康生は、リリスの真剣な表情を見て黙る。

「実際はまだあるが、我々が住んでいる土地への入り口はもうすぐじゃ。入り口にさえつけば後は転移の魔法ですぐに我の国に行くことが出来る」

「転移の魔法……」

 今までは攻撃的なものと、回復的な魔法しか見てきてこなかった康生は、始めて実用的で便利な魔法を知る。

「じゃが心しておけよ。康生、貴様は我々からしたら人間なのだからな。我が一緒とはいえ何が起こるか分からんぞ」

 異世界人の国にもうすぐ入るという事もあり、リリスも、護衛の二人も緊張した表情だった。

「分かってますよ。俺は何があっても諦める気はありませんから」

 しかしそんな緊張を跳ね返すように、康生はまっすぐリリスを見つめ答えた。

「ふっ。それでこそ康生じゃ。それじゃあ行くぞ!」

 そうして康生は人類にして初めて、異世界人の土地へと足を踏み入れようとしたのだった。

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