第261話 時
「それじゃあ行ってきます」
現在は地上。
地下都市入り口の地上部にエル達が康生を見送る為に集まっていた。
本来なら町の人達や異世界人達も見送ろうとしていたが、康生の希望でお別れは少数で行うことになった。
結果、エルと時雨さん、リナさんの計三人が見送りとして出てきたのだった。
「結局あいつは来なかったんだな……」
見送りしてくれるメンバーに上代琉生がいない事に、康生は少しながらの寂しい表情を浮かべる。
「あいつはあいつでやる事があるのだ。それに別に今生の別れでもない。またすぐに会える」
そんな康生を見て、リナさんが励ますように言う。
「そう、ですね……」
そう。今回の別れは別にずっと続くものではない。
康生が魔力の修行を終え次第すぐにでも帰ってくるつもりだ。
もし修行が終わらなくても、エル達がピンチになれば康生はすぐに帰るだろう。
そんな康生の考えが分かっているので、エル達は悲しい顔はせずにあえて明るい表情を見送ろうとしていた。
「リリスには気をつけてね!何されるか分かったものじゃないから!変な事されたらすぐに帰ってきていいんだからね」
「まて!変な事とはなんじゃ!我はそんな事する予定はないぞ!」
「どうだかね」
出発の最中に際しても二人はいつものように口喧嘩を繰り広げる。
しばらくエル達に会えない康生にとっては、そんな事すらもすごく大切なもののように感じられた。
「康生。頑張れよ」
エル達が口喧嘩をしているのをよそに、今度は時雨さんが康生の元へと来る。
特に何かを言うわけでもなく、ただ一言。時雨さんはそれだけ言って康生をじっと見つめていた。
「分かってますよ。絶対強くなって帰ってきます」
「康生はもう十分強いのだがな……」
去り際に時雨さんが小さく呟いたが、どうやら康生の耳には届かなかったようだ。
こうして皆との別れを済ました康生はいよいよリリス達と共に旅立つ時が来た。
「それじゃあ行って来ます!」
今度こそ本当に別れの言葉を告げて康生は背を向ける。
「――本当に」
だが康生を背を向けた瞬間、背後からエルが声をかける。
「本当にいつでも帰ってきてもいいんだからね!」
それはエルの心からの言葉だろう。
康生はそんなエルの気持ちが心から嬉しく、だがそれでも振り返らずはせずに手を振って答える。
もし今振り返ってしまえば決意が揺らいでしまうかもと思ったからだ。
そうして康生は決意を固めて足を進めた。
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