第260話 ピリピリ

「本当にいいんじゃな?」

「はい!」

 リリスに再度確認されるも、康生は一瞬の間も置かずにすぐに返事を返す。

 それだけ康生の意志も固いという事だろう。

 なによりエル達が自分を不要としている訳ではないという事が分かった。

 皆は康生の為を思って言っている事がひしひしと伝わってきたからだ。

「本当にこの場所は大丈夫なんだろうな?」

 だが、それと同時に康生の中では不安がある。

 康生がいなくなった今、ここを攻められてしまったら勝ち目がないのではないか、と。

 しかしそんな不安を上代琉生はすぐに解消する。

「敵の狙いは英雄様ただ一人。だから英雄様が向こうに行けば向こうも手が出しずらいからきっと大丈夫だ。だがもし仮にここが攻められるようであれば、すぐにそっちに情報を渡そう。その為に作った部隊だ」

 上代琉生の言葉を聞き、康生はようやく安心する。

 確かに敵の狙いは康生だという事は分かっていた。

 康生が異世界に行くことでここが攻められる可能性は万が一にもあるかもと思っていたが、上代琉生が知らせる手段を確立させた以上、恐らく今の康生なら数時間でここへ帰ってくることが出きるだろう。

「そこで質問なんじゃが、我と一緒に行くのは康生だけでよいのか?」

 話がまとまった所で、リリスが康生以外のメンバーにそれぞれ視線を向ける。

 しかし皆は迷う事なく答えをあげた。

「大丈夫」

 エルが言うと同時に、皆もあわせて頷く。

「我々が行っても邪魔をしてしまうだけだ」

「それに私が行ってもいらぬ問題を増やしてしまうだけだからな」

 続けて時雨さん、リナさん共に断りの言葉を言う。

「よし。わかった」

 皆の意見を聞いたリリスは満足したように表情を緩ませた。

「じゃあ出発は明日の早朝に行う。康生、それまでに準備をしておけよ」

「はいっ!」

 こうして康生は一人で、リリスと共に異世界へと行く事なった。

 異世界の国という事で、康生は当然不安だらけだ。

 康生自身は人間という自覚があり、周りからもそういう目で見られる事に自覚はしている。

 それでも康生はエルの為に強くなると決めた以上、手段は選んでいられないのだ。

 魔力について学び、もっとエル達の力になる。

 康生はそんな決心を胸に抱えていた。

「あっ、ちなみに結婚の話はまだ終わってないから覚悟しておけよ?」

 ようやく話が終わったという所で、リリスが何気なしに言ったその言葉で一気に場の空気がピリピリとし始めた。

「ちょっとそれは今関係ないでしょっ!?第一康生がそっちに行くのだからもういいじゃないの!」

「馬鹿者!我の国に来るからこそチャンスなのじゃよ!第一貴様は康生と付き合ってないのじゃから関係ないじゃろ!」

「いいえ関係あります!もし康生に変な事したらただじゃおかないから!」

「何をっ!?」

「何よっ!?」

 リリスのいらぬ発言でエルの怒りを買ってしまったが、まだリリスが諦めていない事を知り、康生はさらに不安の種が増え、頭を抱えるのだった。

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