第258話 返答
「ふぁ〜」
朝。
広場で寝ていた康生は、重い瞼を開けながら起きあがる。
「今日は大丈夫だな……」
起きあがると同時に自身の周囲を確認する。
以前は宴会が終わり、朝起きるとエルがいたり、時雨さんがいたりした事を思い出したようだ。
だが今回は周囲には誰もいなく、しかしかえって少し康生を不安にさせた。
「皆どこ行ったんだろう」
広場を見渡せど、街の人達と異世界人達しか見えず、エルや時雨さん、リナさんに上代琉生、リリスまでもがその姿を消していた。
「リリス……」
そうして探している内に康生は昨日の夜の事を思い出した。
今以上の力を手に入れるためにリリスに異世界に誘われた事を。
正直康生はまだまだ自分の力を不足を悔いている。
そして異世界にいけばきっと魔法についてもっと修行が出来るはずだという事も分かっている。
修行に関してはリリスは約束さえしてくれた。
だからこそ康生の中では今大きく揺れ動いているのだった。
「――康生」
と考えているところに、背後から声をかけられる。
慌てて振り返るとそこには時雨さんが立っていた。
「あっ、おはようございます」
もうすでに起きていた事に若干驚きながらも、康生はすぐに立ち上がる。
「時雨さんが起きてるって事はリナさん達も、もう起きてるんですか?」
「あぁ、皆もう目を覚ましているよ」
康生の問いかけに時雨さんはいつもとは暗いトーンで言葉を返す。
その事を不自然に思いながらも、康生はじっと時雨さんがしゃべるのを待った。
「少し来てほしい場所があるんだがいいか?」
「え?は、はい。全然大丈夫ですけど……」
神妙な顔をしていたので、康生もまた何かあったのではないかと思いすぐに時雨さんの後を追いかける。
(一体どこに行くつもりなんだ?)
時雨さんが歩く方向は、広場中央の建物でもなく、ましてや時雨さんの家でもない。
その先にあるのは現在リリスが住んでいる建物だけだ。
その事に対し、さらに不安を覚えながらも康生と時雨さんは無言で足を進めた。
「連れてきた」
到着するやいなや時雨さんはすぐに扉を開く。
慌てて康生もその後を追って部屋に入ると、そこには先ほど言っていた皆が集まっていた。
「これは一体……?」
部屋の中には真ん中にリリスが座っており、その左右を護衛の人が立っている。そして部屋にばらけるようにエル達が立っていた。
「よく来たな康生」
状況が全くついていけない康生に、リリスはそれでもいつもと変わらないように言葉をかける。
「あの……一体これは?」
状況を理解しようと、ひとまずリリスに聞く康生。
しかしリリスの返答を遮るようにエルが口を開いた。
「――康生。異世界に行って来てもいいよ」
そんな突然の言葉に、康生は驚愕する事すら忘れただ呆然と口を開けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます