第256話 条件

「大丈夫だった康生!?」

 試合が終わると同時に、康生の元にエルがやってくる。

「大丈夫だよ。ちょっと魔力を使い過ぎたみたいだけど……」

 リリスに魔力を吸われ、一瞬だけとはいえ解放の力も使ったのだ。

 康生の体は限界に近いものになっていた。

「もぅ。試合なんだから無理はしないでよ」

 そう言いながらエルは康生の傷を回復させる。

「おい。我の傷も治してくれ」

 すると背後からリリスがやってくる。

 リリスも戦闘により所々に傷が出来ていた。

「元々自分から始めたことなんだから傷が出来ても自業自得よ」

 しかしエルはリリスの方に振り向きもせずに淡々と答える。

「ふっ、そんな事を言ってもいいのか?」

「何よ?」

 そんなエルの態度にリリスは機嫌を悪くするわけでもなく、不敵な笑みを浮かべた。

「康生は今魔力が不足しているのじゃろう?それを回復させるには我の力が一番早いのではないじろうか?」

「うっ……」

 そう。エルは傷を回復することが出来ても、魔力を回復する事は出来ないのだ。

 同時に解放の力がどれだけの魔力を消費するのかはエルはよく知っている。

 だからこそすぐに康生の魔力を回復させてあげたいと思っていたのだった。

「……分かったわよ」

 そうして康生を交渉材料に出され、エルは仕方なくリリスの傷も治す。

 その後康生の魔力も回復され、宴は再び再会されたのだった。




「これで俺はそちらに行かなくていいんですよね?」

 宴が終わり、皆が寝静まる頃。

 康生はリリスに呼ばれ、中央広場から少し離れたところまで来ていた。

「そういう約束じゃったな。だが貴様から行きたいと行ってくれば我は止めないからな」

「俺がそんな事を言うと思ってますか?」

 試合を始める前に行っていた言葉。

 リリスの予言を聞くのなら、康生は試合に負けても勝っても、どちらにせよリリスと共に異世界の国へ行くのだという。

 しかし今の康生には異世界の国に行こうなんて微塵も考えていなかった。

「一つ聞きたいがお主は魔力を使い慣れていないようじゃな?」

「まぁ、最近使い始めたばかりですから……」

「それで我の技をとっさに真似たのか……」

 康生の言葉にリリスは何か深く考えるようにうつむいた。

 技を真似たというのは恐らく、魔力を外側に吐き出すの技だろう。

 康生も半ば半信半疑でやった技だったが、使ってみれば案外単純なものだった。

「康生。お主はさらに強くなりたいと思わんか?」

「え?」

「我と共にくれば魔力の使い方をとことん鍛えられる。それによって貴様は異世界一、いいや恐らくこの世界一の強さを手に入れる事が出来るぞ?上王である我が言うのだから間違いない」

 世界一の力。

 リリスに提示された条件を聞き、康生はすぐに返事を返すことが出来なかった。

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