第255話 歓声
「それじゃあそろそろいかせてもらいますよっ!」
康生はリリスが見せた隙を狙って攻撃に入る。「ふんっ!」
しかしやはりリリスの作戦通りのようで、攻撃に入る康生に向かって両方から同時に鞭が襲いかかってくる。
その鞭はちょうど康生の死角になる位置を狙ってきているので回避するのに少しの時間を有する。
さらに康生は現在攻撃を仕掛けている最中だ。
当然そんな時に回避の心配をすれば、逆に向こうに隙を見せることになってしまう。
そんな計算された状況の中、それでも康生は勝ちの道を諦めてはいなかった。
「はっ!!」
大きく息を吐き出すと同時に康生は拳をリリスに突きつける。
「ふっ」
その瞬間リリスの表情が確信に変わる。
恐らく康生のグローブが届くよりも先に、リリスの鞭が康生を捕らえるからだ。
もはやそれは誰の目から見ても明確な事実だった。
しかし、
「『解放』っ!!」
康生か叫ぶ。
その瞬間、リリスの目の前から康生が忽然と姿を消す。
「なっ!?」
今までどんなに速くても、康生を動きを追っていた鞭も、その瞬間康生を見失ったように動きを止める。
「こっちですよっ!」
リリスの視界から消えた康生は、その瞬時の間に上空へと飛び、リリスに向かってグローブを降ろしていた。
「これで終わりですっ!」
そう康生が言うと同時に、咄嗟に反応出来なかったリリスの頭に康生の拳がぶつかる。
コツンッ。
「え?」
これからくる痛みに耐えるために目をつぶっていたリリスだったが、間の抜けたような音が聞こえ恐る恐る目を開く。
するとリリスの頭にそっと手を置いている康生の姿が目に入る。
「――っと言っても。やっぱり女の子を傷つけるわけにもいきませんから今ので降参してくれませんか?」
確実に勝てていた場面で、康生はそんな事を言うのだった。
「――はっはっはっ!」
そんな康生を見て、リリスは突然笑い出す。
今までの死線をくぐり抜けていたような表情とは一変し、その顔に満面の笑みを浮かべたのだった。
「リリス?」
突然笑い出したリリスに康生は、反対に戸惑いの表情を浮かべる。
そのままどうしようかと悩んでいると、ようやくリリスが笑いをやめる。
「我の負けじゃっ!そんな事を言われたらもう負けを認めるしかないじゃろうよっ!」
そんなリリスの発言で、この試合の勝敗が決まった。
その瞬間、リングを囲んでいた者達が一斉に歓声をあげたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます