第250話 世話係
「試合、ですか?」
突然のリリスの発言に康生は動揺しながらも、かろうじて言葉を絞り出す。
「そうじゃ!宴というのは盛り上がるものじゃろう?その余興として康生と我で試合をするのじゃ!」
リリスのあまりにも突然な言葉に康生どころかその場の全員が言葉を失う。
だが、
「それはおもしろそうだな……」
「確かに……英雄様の力が生で見れる……」
「それに噂では上王様も相当強いと聞いたぞ……」
街の人達が皆一様に言葉を呟いた。
そしてそれが広場全体に広がっていき、その時のすでに康生とリリスの試合を観戦するべく準備が進められていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
康生は慌ててやめようと声をかけるが、皆当の本人である康生の話を聞かずに準備を進める。
こういうノリがいい所がこの街の人たちなのだと康生は今更ながらに痛感しながらも、ただ見守ることしか出来なかった。
「大丈夫康生?」
そんな康生を心配してエルが近くに寄って来る。
「ま、まぁ大丈夫だよ……」
試合と言っても簡単な稽古のようなものだと、康生はこの時は思っていた。
しかしすぐに横からリナさんが注意してくる。
「決して侮るなよ?ああ見えて上王様の力は相当だ。伊達に異世界人達をまとめている人ではないからな?」
「えっ?」
リナさんからリリスの事を聞き、康生は思わず聞き返す。
「当たり前だろ。そもそも護衛の者達は上王様の世話係だ。あれの力で上王様を比較しようとすると痛い目を見るぞ。正直上王様相手では私も勝てるか分からない」
困惑している康生にリナさんはそれだけ言って皆の準備を手伝いにいく。
上王様が一度言い出した事という事もあり、リナさんは試合自体は否定的な意見ではないようだった。
「リナの言うことは本当よ。だから康生が心配で……」
その話を聞いてエルも同じように言う。
二人から事実を知らされた康生はただ呆然と立ち尽くす。
少なくともリナさんよりは強い存在。
それと今から試合をするという事に少なからず緊張を感じ始めたのだ。
なにせ自分は英雄と言われている。
その看板が康生の体を重くさせる。
もし、ここで負けてしまったら。康生はどうなるか。
誰の力にもなれない一人の人になってしまうのではないだろうかと、康生の頭を悩ませる。
同時にここで負けてしまえば、リリスは康生をわ諦め、こんな場所さっさと滅ぼしてまうのではないかという不安も頭をよぎる。
(負けられない……)
ただの宴会上での試合だが、康生はそんな強い意志を抱えて自身の準備を始めたのだった。
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