第251話 予言
「さぁ二人共準備はいいですか?」
広場に急設されたリングの中央で、審判役の上代琉生がしゃべる。
このリングはいつの日か、ここで康生が隊長と戦ったリングと同じ作りで康生は少しだけ懐かしい感情にかられた。
「さぁ今宵の宴会の大目玉!英雄康生と上王リリス様との模擬試合が間もなく始まります!皆様くれぐれも見逃さないように!」
二人はリングに立ってお互い向かい合っている。
その間に上代琉生が観客をこれでもかというほど暖める。
前から思っていたが、どうやら上代琉生はこういう人を扇動するのが得意なようだった。
「ふふっ!どうした緊張でもしているのか?」
「ま、まぁ、ちょっとは……」
気をそらしていると、目の前のリリスが不適に笑ってくる。
どうやら向こうは自信満々のようだ。
時雨さんよりも強いと言われ、その実力が未知数なリリス相手に康生はどうしようか迷っていた。
「でも本気でいっていいんですね?」
「あぁ構わん」
それでも、相手がいくら上王様であろうと康生は手を抜くつもりはないらしい。
その証拠に手にはしっかりとグローブが装着されており、腰や懐には色々な道具を準備している。
開始前から少し距離をとっているのは、いつものように相手の出方を伺うためでもある。
それだけ康生はこの試合に本気で挑んでいた。
そしてそれには理由がある。
「我が勝ったらあの約束を果たしてもらうぞ?」
「分かってますよ……」
約束。それは試合を始める前にリリスに言われた事だった。
内容は、
「ふふっ。これで我が勝てば結果的に康生は我の物となるぞ!」
康生が負ければ、リリスとともに異世界人達の国に行く事だったのだ。
「もう勝った時の想像ですか?」
「ふんっ。勝負は常に勝つことを考えればよいのじゃよ」
今日一緒に過ごして見て、リリスはそこまで過剰に康生にアタックを仕掛けてこなかった。
だからこそ少しだけ安心していたが、それは失敗に終わった。
さらにこの約束はエル達には話していない。
康生も無用な心配を掛けたくないと思ったのもそうだったが、リリスが絶対に止められるから言うなと釘を刺されたからだった。
という訳で、康生はやる気を出せざるをえなかったのだ。
「一つ予言をしてみようか」
「予言ですか?」
試合が始まろうとする前、リリスはつぶやく。
「この試合。結果がどうあろうと貴様は我とともに来る事になろうぞ」
とそんな事を言ったのだ。
当然康生は行く気がないのですぐに反論しようとしたが、その直後に試合開始のコングが鳴り響いたのだった。
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