第248話 住居

「――どうしてしてこんな事に……」

 ここは広場。

 先日の宴の片づけがあったはずの広場なのだが、どうしてか再度飾りづけが行われていた。

 その光景を見てただただ康生はため息を漏らすのだった。

 というのも、あれから畑にリリスを案内した後、リリスが食料を渡してくれるという話になり、結局リリスがそう望んでいたので歓迎の意味を込めて宴会が開かれることになった。

 そういうお祭り事には慣れてきた康生だったが、流石にこう何度も開催されれば多少は疲れが出るものだ。

 だが、街の人達は皆楽しそうに準備をしている姿を見て、康生はどことなくに温かな気持ちになる。

「時間稼ぎご苦労様」

 すると、そんな康生の背後から上代琉生が歩み寄ってきた。

「時間稼ぎ?」

 しかし上代琉生の言うことの意味が分からず康生はたまらず聞き返す。

「あぁ。英雄様がリリス様をデートに連れて行ったことでリリス様の家を探すことが出来た」

「あぁ、そういう事か……」

 そういえば上代琉生はすぐにリリスの家を準備すると言っていた。

 しかしそんなすぐに用意できるわけがなく、どうやらリリスを俺に預け、残りの護衛達は軽く時間稼ぎをした後にようやく家を見つけたようだ。

「それで一体リリスはどこに住むことになったんだ?」

「講堂だよ」

「講堂?それってリナさん達が住んでいる場所じゃ……」

 上代琉生がリリスを案内したとされる講堂は、以前からリナさん率いる異世界人の軍団の住まいだった。

 もしや異世界人達をまとめて住まわそうとしているのではないかと康生は一瞬だけ焦ってしまう。

「安心してくれ。元々住んでいた異世界人達はそれぞれの家に案内してある」

 しかしそんな康生の心配を見越してか、上代琉生がすぐに説明してくれた。

「元々住居は何軒が建っていたからな。そこに異世界人達を割り振っていき、余った人達は、この街の人達の家に居候させてもらう事にした」

「居候?それは大丈夫なのか?」

 確かにそれなら講堂全てをリリスの為に使えるので、満足はしないかもしれないが多少の不満はなくなるはずだ。

 だがそれにより元々住んでいた異世界人達が、街の人達と一緒に暮らすという事を聞き康生は少しだけ不安に思う。

「大丈夫。英雄様だってさっきまで見ていただろ?」

 そう言って上代琉生は視線を広場に向ける。

「――そうだな」

 上代琉生の視線に合わせて康生も移動させると、そこには宴会の準備をしている街の人達と異世界人達の姿があった。

 誰もが楽しそうに和気藹々と準備をしている姿を見ていると、先ほどのような心配はすぐに飛んでいってしまった。

「といっても多少の不安材料は残るだろうから、そこは新たに作った部隊でカバーしよう」

「お前の部隊か?」

「あぁ。先ほどようやくメンバーも決まった所だ」

 どうやらリリスの家を見つけている間に、上代琉生が隊長となる隠密部隊をすでに作ったそうだ。

「それじゃあ俺はそろそろ行くよ」

「色々とありがとうな」

「こっちだって色々助かってるからおあいこだよ」

 上代琉生はそれだけ言って街の中に姿を消していった。

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