第242話 口喧嘩

「貴様、我と結婚しろ」


「なっ、なっ、なっ……!」

 赤髪の少女の言葉にその場の誰もが唖然とする。

 その中で一番混乱しているのは、やはり康生だった。

 当然だ。なにせ一国の王を務めている少女にプロポーズされたのだ。誰だって混乱する。

「なんじゃ?我と結婚するのがいやか?」

 しかしその中で唯一、さも当たり前のように振る舞っているのは赤髪の少女。

 康生が言葉を返さないのは、結婚が嫌だからと勘違いしている赤髪の少女ただ一人だった。

「い、いや嫌とかそういう以前の問題で…」

 とにかく一回落ち着こうと、そう康生が思っていると。


「そんなの認めないからねっ!」


 突然、赤髪の少女の前に立ちはだかるようにエルが現れた。

「別に貴様の許可などいただく必要もないわ」

「いいえ!康生は渡しません!康生は私たちの仲間なんだから!あんたみたいな子に渡してたまるものですかっ!」

「ふんっ。お前は変わってないの。昔からすぐ感情的になって」

「変わってないのはどっちよ!いつもそうやって場を困らせて!」

「別に我がその場がどうなろうと知ったことではない」

「その場の中に康生もいるってのよ!昔も非常識な事を言って恥かいて泣いたの忘れたの!?」

「べっ、別に泣いてなどおらんわ!あれは我じゃなくて周りが悪かっただけじゃ!」

「ほら!いつもそうやって他人のせいにして!」

「本当の事を言ってるのじゃからいいじゃろうが!」

「何よ!」

「何じゃ!」


(…………え〜と。これはどうしたらいいんだ?)

 突如目の前で始まった口喧嘩に、康生は困ったように視線をさまよわせる。

 でも異世界人達を見ても、上王様に逆らえないからか誰も口を出そうとはしていなかった。

(ていうか、エルこそ上王様にそんな口利いて大丈夫なの……?)

「少し落ち着いて下さい」

 なんて心配しながらオロオロしていると背後からリナさんが仲裁に入ってくれた。

「ふんっ!リナ、お前はいつもエルの事ばかりじゃな!」

「私はお二方の事は常に同じように大事に接してきました。それより今は落ち着いて下さい。でないと話は一行に進みませんよ?」

「分かったわ……」

「まぁ、そうじゃな……」

 まるで慣れているように、リナさんは二人の喧嘩を止めた。

「――エル、そんな口利いて大丈夫なのか?」

 二人の口喧嘩が終わったことで、康生はエルの耳元にこっそりと訪ねる。

「私は気にしなくていいのよ」

 だがエルから返ってきた言葉に康生は驚く。


「だってあいつは私の妹なんだから」

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