第241話 呆気

「……っ!」

 護衛の人は口から血を流すほどのダメージを受けても、必死にその場に耐えていた。

「あっ、すいません……」

 そして力を出し過ぎてしまった康生は思わず謝る。

 しかしそれが余計に相手を陥れることに康生は遅くながら気づいたが、今更撤回も出来ないので、じっと護衛の様子を見守る。

「ちょ、調子に、乗りやがって!!」

 護衛の男は必死に耐えながら、それでもまだ戦意は失われてはいなかった。

 だからこそ、康生はこれ以上何も言わずに再び距離を置き戦闘態勢をとろうする。

「何をしておるっ!さっさとトドメをささんか!」

 しかしそんな康生を赤髪の少女が怒鳴りつける。

 どうやらチャンスがあるのに攻撃しない康生に怒りを見せているようだ。

「どこまで侮辱すればっ!!」

 そしてそれは護衛の人も同様で、康生が背後へへと下がる動きを見て瞬時に攻撃に出る。

 その腕には電気が宿っており、瞬時にリナさんのように神速の攻撃がくる。と予測した康生は瞬時に回避に移る。

 敵がまだ攻撃の意志を見せている以上、こちらが攻撃の手を止めればそれだけ向こうが攻撃を仕掛けてくる。

 ならば早く終わらせればいい。

 気を遣っていた康生だったが、判断を下した後の動きは流れるようなものだった。

 まず、敵の攻撃を回避すると同時に敵の背後へと移動する。

 その際に敵が動きを見切って攻撃しようとすればさらに動いたが、敵は攻撃を振り下ろすことに集中しているせいか、全くそんな素振りはなかった。

 なので康生は瞬時に背後に移動し、そしてすぐに首もとに眠り薬を打ち込む。

 こういう小さい物ならば何があってもいいようにと、いつでも持ち運ぶようにしている。

 そして護衛は腕を振り下ろしたまま地面へと倒れた。

「勝負ありねっ!」

 どうしてか、護衛が倒れるとエルが嬉しそうな顔をして赤髪の少女を見ていた。

「なるほど、想像以上じゃな」

 しかし赤髪の少女はエルの視線には気づかずにじっと康生を見つめていた。

「上王様!是非私めにチャンスを!相棒の敵討ちをするチャンスを是非私に!」

 すると赤髪の少女の隣に立っていたもう一人の護衛が敵討ちをすることを志願する。

 どうやら仲間がやられて怒り心頭らしい。

 康生からすれば、勝手に戦わされたのだからいい迷惑だが……。

「ならん」

 しかし赤髪の少女はそれを拒否する。

「しかしっ!」

「ならんと言っておるじゃろ?」

「っ!は、はい……」

 それでもと食いつく護衛だったが、すぐに口を閉じた。

「さて」

 そうして赤髪の少女はじっと康生を見つめたままゆっくりと近づいてくる。

 まさか今度はこの子と戦うのではないのだろうかと、不安を顔に出しながら康生は身構える。


「貴様、我と結婚しろ」


 しかし次の瞬間言われた言葉に、康生のみならずその場の異世界人も含めて全員が呆気にとられたのだった。

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