第240話 踏ん張って

「勝負って言ったって……」

 チラリと目の前の異世界人を見る。

 二つの足で地面に立ってることから人に近い種族だということが分かる。

 だが身体は青く、おまけに口からは牙が、頭には角が生えていた。

 それだけでも十分恐怖を感じさせるが、なによりも恐れを抱くのは身長だろう。

 自身よりも10センチは高いであろう相手は、見下ろすようにこちらを睨んでいるので余計に怖いのだ。

「何をしてるっ!さっさとやらんかっ!」

「ちょっと待ってよっ。いくら魔力が回復しても康生は武器が何もないのよっ!」

 するとエルがさらに反論するが、赤髪の少女はもはや待ってくれる余裕はなさそうだった。

「武器などいらぬ!英雄と呼ばれてるのじゃったら素手で倒してみせろっ!」

(無茶を言う……)

 康生の今の状態は武器もないし、装備もしていなかった。

 康生の戦闘スタイルはとにかく道具に頼って、魔力や体を動かす量を減らすことだ。

 勿論それらがなくても戦えないこともないが、正直道具に頼らなければ康生は長時間戦えない。

「――上王様はお怒りだ。さっさとやるぞ」

 ドスの利いた声で護衛が睨みつけてきた。

「安心しろ。別に殺したりはしない。すぐに楽にさせてやるさ」

 そう言って護衛の男は拳を構える。

 どうやら相手も素手で戦おうとしているようだ。

 でも相手は異世界人当然魔法を使ってくる。

「……分かりましたよ。そっちこそ死なないように頑張って下さいね」

 と康生が攻撃態勢に入ろうとした時、よっぽと今の言葉が我慢ならなかったのか、護衛の人は鬼のような形相で突進してくる。

「わっと!」

 いきなりの事に驚きながら、康生は空高くジャンプしすぐに背後に逃げる。

「動きだけはすばしっこいようだな」

「動きだけじゃないけどね」

 今度はこちらの番という事で、康生も同じように護衛の男に向かって殴りかかる。

「ふんっ!傷をつけれるものならやってみろ!」

 しかし護衛の男はその場を一歩も動かず、康生の攻撃を受けようとしていた。

「嘘っ!」

 てっきり避けられるだろうから、風の魔法でブースし、風圧を受けただけでも傷がつくように調節していた康生はすぐさま攻撃を中断しようとする。

 これがモロに当たれば本当に死んでしまいそうと思ったからだ。

「ぐっ!」

 すぐさま足に力を入れ、腕を止めようとする。


「っ!」


 瞬間、護衛の呻き声が聞こえた。

 もしかして当たってしまったのだろうかと、康生は恐る恐る目をあける。

 見事腕は護衛の男の前すれすれで止まっていた。

 しかし上を見上げると護衛の男は口から血を垂らし必死にその場に踏ん張っていたのだった。

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