第239話 躾

「…………」

 康生達は降りてきた少女を緊張するようにじっと見ていた。

 何を言われのかも、何をされるのかも分かってないこの現状で、こちらから行動を起こすことは出来ないからだ。

「――康生、という者は誰じゃ?」

 後ろに護衛のような者を二人つけて、赤髪の少女はゆっくりと近づいてくる。

 そしてどうして自身の名前を呼ばれたのか戸惑った康生は、慌てて一歩前に出る。

「お、俺がそうです!」

 名乗り出ることで異世界人達の視線が康生に刺さる。

「ふむ貴様が……」

 赤髪の少女は康生の体を上から下までじっと観察するように見る。

 やがて何を思ったか、赤髪の少女は護衛の一人を前に出した。

「それではお前が本当に強いのか、こいつと一度勝負してもらおうかの」

「はっ!」

「えっ!?」

 そう言われると護衛の一人がすぐさま康生の前に出てくる。

 しかし康生はいまいち状況を把握することが出来ず、戸惑うばかりだ。

「ちょ、ちょっと待って!いきなり何言ってるのよ!」

 この状況を見かねて、エルが思わず赤髪の少女に食いかかる。

「何とはなんじゃ。我はそいつの力が本当なのか確かめたい。ただそれだけじゃ」

 エルの態度を咎めることなく、淡々と述べる。

「何よそれ!意味分からない!」

「分からなくてもいい。貴様とは関係ない話だからな」

「関係なくないっ!」

 まるで子供が喧嘩するようににらみ合う二人。

 そんな二人を見た、異世界人達の方からはひしひしと不機嫌なオーラ伝わってくる。

「――少しいいですか」

 見かねたリナさんが一歩前に出て、赤髪の少女の方へ向きを変える。

「康生は先日の戦いで魔力切れを起こしています。現状のままではまともに戦う事すら出来ません」

「ほぅ……」

 リナさんの言葉に赤髪の少女はしばらく考えるように頭をひねる。

「では我が魔力を回復させてあげよう」

「えっ!?」

 赤髪の少女から出てきた言葉に康生は戸惑いを見せる。

「なんじゃ?随分と驚いているようじゃな」

「い、いや!魔力を回復って……魔力供給をするって事ですよね……。あ、あの俺達その、あったばかりなのに……」

 康生が恥ずかしがりながら言うを聞いた赤髪の少女の顔はみるみると赤くなる。

「な、何を勘違いしとるんじゃ!我が貴様なんぞに魔力供給をするわけないじゃろうが!」

 怒鳴り声が聞こえると同時に康生は目の前に護衛に睨み殺されるような目つきでみられる。

「で、でもじゃあどうやって……」

「康生。上王様は触れるだけで魔力を渡せる特殊な力を持っているのだ」

 そんな康生を見かねてリナさんがまたしても助け船を出してくれる。

「全く躾がなっておらんぞ!躾が!」

 そう言って文句をいいつつも赤髪の少女は康生に魔力を渡す。

 すると先ほどまでの気だるさが嘘のように消えていった。

「ふんっ!これでいいじゃろ!それじゃあさっさと勝負を始めんかいっ!」

 大分起源を悪くした赤髪の少女は早口でまくし立てたのだった。

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