第238話 赤い馬車
「……緊張しますね」
康生、エル、時雨さん、リナさんの計四人で地下都市入り口上部へと並ぶ。
視線の先には、わずかに目をこらすと砂埃が立ちこめており、だんだんこちらへ近づいてきているのが分かる。
「上王様って一体どういう人なんですか?」
どんな人物か知っておこうと、上王様と顔見知りがあるであろうエルとリナさんに訪ねるが、
「それは……」
「えっとね……」
二人は顔を曇らせて口ごもるのだった。
「一体どうしたのだ?」
そんな二人を見た時雨さんが心配そうに声をかける。
「い、いえ。大丈夫よ。あの子の事を思い出すとちょっと嫌な記憶を思い出しただけよ」
「私もお嬢様と同じです……」
嫌な記憶?
その言葉だけ聞くと、康生はとんでもなく嫌な予感がするのだが、それでも二人はやがてゆっくりと口を開く。
「あの子は我が儘であまり言うことを聞く子じゃなかったわね」
「そして妙に頭が回って、散々苦しめられたものだ……」
まるで悪夢でも見ているかのように二人はため息混じりに吐き出した。
「「…………」」
そんな二人を見て、康生と時雨さんはこれからの事を考え、頭を悩ませる。
二人がそれだけ言う相手は一体自分たちに何をしようというのか……。
「そろそろ来るぞ」
流石指揮官を務めているだけあって、相手の姿が目視できるようになるとリナさんはすぐに姿勢を正す。
今回の相手は一応好戦的ではないというのが)たちの認識だ。
でも、だからこそ下手にでることでこちらに利益があっても、上から目線をしていいことは何もない。
だから満場一致でまずこちらが下手に出て向こうの真意を計ろうということになったのだ。
「結構な数ですね……」
兵士からの報告を受けていた康生だったが、敵の姿をこうして視認してからその数に多さに驚く。
先日の戦いでも相当な数はいただろうに、今目の前にいる数は簡単にそれを上回る数だった。
「……あまり失礼なことは言うなよ」
「分かってます……」
尻込みしているところをリナさんが注意するように鋭く言う。
「静かに。もうそろそろ来るわ」
エルの声で康生は視線を戻すと、異世界人達はすでに目の前で停止していた。
異世界人達の集団の真ん中には亀裂が入っており、そこから真っ赤な馬車のようなものが近づいてくる。
ゴクリ……
緊張のあまり唾を飲み込む康生は、上王様が来るのを緊張した顔で待つ。
「止まれぇ!」
やがて赤い馬車のようなものが異世界人達の少し前方のところで止まると、ゆっくりと扉が開く。
(――っ)
扉から出てきた人物を見て康生は思わず息を止めてしまうほどじっと見つめていた。
それほどまでに綺麗で可愛らしかった。
そこから降りてきた人物は長く赤い髪を伸ばした一人の少女だったのだ。
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