第237話 避難

「どういう事だ……」

 兵から報告を受けた一同はすぐさま作戦本部を立ち上げた。

 時雨さんにおぶられて康生もしっかりと参加している。

 そしてこの中で一番焦りを見せているのはリナさんだった。

 異世界人の軍ということは自然とリナさん達に関係があるということ。

 先ほど病室で少しもらした通り、リナさんは現在命令違反を行っている。

 だからこそ攻められても問題はないのだが、タイミングがおかしいとリナさんは言う。

 もし命令違反が発覚しているのならすぐにでも部隊が編成されるはずだと。

 しかし今回はその部隊がおかしいというのだ。

「……もう一度聞くが、本当に上王様がいらしたんだな?」

「姿は確認しておりませんが、先ほどおっしゃれたように赤く高貴な馬車のようなものは確認致しました!」

 上王様とリナさんが言うその人は、どうやらエル達が所属していた種族の王様のような存在らしい。

 そんな一国の王がわざわざこんな場所まで顔を出してきているので、康生達の頭をさらに混乱させたのだ。

「一体どういう目的なんだ……」

 同じ仲間として、何か役に立とうと誰よりも必死に考えるリナさんだったが、そんなリナさんでも相手の目的が全く読めていないようだった。

「とりあえずこっちはいつでも逃げれる準備をした方がいいんじゃないですか?」

 話し合いが息詰まる中、上代琉生がそっと手を挙げ提案する。

「逃げる、だと?」


 上代琉生の提案に時雨さんがわずかながら表情を暗くした。

 時雨さん以外も、その場にいる兵士達は皆表情を曇らせていく。

「戦う選択肢はないの?」

 そんな空気を察してかエルが上代琉生に訪ねる。

「えぇ、ありませんよ。我々の最大の武器である英雄様が使えない以上こちらが勝つことは絶対にあり得ません。少なくとも向こうは上王様という奴を連れてきている。当然護衛の力も相当でしょう」

 すらすらと言葉を言われ、一同は黙り込む。

 上代琉生の言っていることはもっともだと誰もが思いこむ。

 しかし全員で脱出できる手段など思いつきようがなかった。

「――たった今報告が!異世界人達は急速に接近しすでにこの地下都市の入り口付近に迫ってきています!」

「何っ!?」

「さ、さらにこちらへ向けてエルさんと、英雄様を合わせるよう命令がきていますが……」

 次々と新たな情報が入る中、敵から指名されたエルと康生はお互いを見て覚悟を決める。

「分かりました!今の所は攻撃してくる素振りはないようですし、二人で行ってきます」

「えぇ。私がいるなら向こうもそう簡単に手出しは出来ないでしょうし」

 時雨さんもリナさんも康生達の意見には反対したいと思いつつも、今この現状で最善の手ということで何も言えることが出来なかった。

「それじゃあ俺は念の為、避難の準備をしておきますから、お二人も一緒について行って下さい」

 上代琉生の言葉で、時雨さんとリナさんも康生と共に行くことに決まった。

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