第231話 運ぶ
「眠っちゃったね」
康生の隣に座っていたエルが小さく呟いた。
そして康生の寝顔を見て、一人優しげな微笑みを浮かべていた。
「康生……」
気持ちよさそうに寝ている康生に、エルはそっと手を延ばし頭を撫でる。
さらさらな髪の毛に気持ちよさそうにエルは感じ、康生は安らかな笑みを浮かべていた。
「……ありがとう」
あんなにも頑張ってくれて。あんなにも命を掛けてくれて。
恥ずかしくてすべては言えないが、エルは康生にとても感謝をしているのだ。
そんな思いから康生を撫でるエルの手も自然に優しくなっていた。
「――お嬢様」
頭を撫でていると、リナが近づいてくる。
「ここで寝ては体に悪いので、病室まで運びにきました」
リナもどうやら康生のことを心配し、わざわざ病室まで運びにきたようだった。
「大丈夫。私が運ぶから」
だが、エルはそんなリナの申し出を断り一人で行くように言った。
「しかしお嬢様一人では無理があります。康生のためにも私が行きますので」
「うっ……」
確かにエルの身長は康生よりも低く、まともに持ち上げることすら出来ないようだった。
でも、そんなエルだが、今日はどうしてかいつものよりわがままのようでリナの申し出を受け入れようとはしなかった。
「――あなたは……リナは康生のことどう思っているの?」
「えっ?」
そんながエルが口にしたのは、康生についてのリナの気持ちだった。
「そ、それはい、一応信用はしています」
少しだけ目をそらすようにしながらも、リナは咄嗟に答えた。
「二人共どうしたんだ?」
すると、そんな二人の元に時雨さんがやってくる。
「丁度よかった。時雨は康生のことどう思っているの?」
そしてエルはリナと同じように、時雨さんにも同じ質問をした。
「い、いきなりなんだ?康生のことは……べ、別に信頼してるし、尊敬だってしてる」
と時雨さんもリナと同じような言葉を返す。
しかしエルはそんな二人の回答が少しだけ気に入らないようで、少しだけ困ったような顔をする。
「……丁度いい機会です。お嬢様は康生のことをどう思っていられるんですか?」
「私は……」
リナの質問にエルは言いよどむ。
そしてチラリと康生を横目で見て、少しだけ顔を赤くさせる。
「私は…………」
何かを言おうとしながらも言葉に詰まっているようなエルだったが、二人は答えるまで納得しない様子だったので、エルは意を決したように口を開く。
「私は康生のことが、好き。私は康生の愛してる」
エルはわずかに顔を伏せながら、消え入りそうな声で答えたのだった。
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