第232話 二人は

「私は康生のことが、好き。私は康生の愛してる」

 エルは少し照れながらも、二人の顔をまっすぐ見て答えた。

「……ほ、本当なのか?」

 真っ先に反応したのは時雨さん。

 エルの言葉に動揺を見せながらも、わずかに音量を下げて確認の意味も含めて聞き返す。

「本当よ」

 エルは即答する。

 そんなエルの気迫に押されたのか、時雨さんは口ごもる。

「…………」

 そして先ほどからリナさんはじっとエルの顔を見つめるだけだった。

 表情は真剣そのもので、まっすぐと見つめていた。

「――分かりました」

 ようやく口を開いたかと思えば、その言葉にエルや時雨さんまでもが驚いたように見つめる。

「い、いいのか?いつも散々言ってきたのに……?」

 リナさんの発言に、時雨さんは恐る恐るという感じで尋ねる。

「えぇ。康生がどれだけの人間かは多少なりとも分かったつもりです。その上で、お嬢様の相手として不足はないとなりましたので」

 ということは、リナさんは康生を認めているということに他ならなかった。

 あの時、魔力供給をしたので恐らくあの時からリナさんの心の中ではとっくに決まっていたことなのだろうと、エルはわずかながらに納得する。

「でも……」

 とリナさんから許可が降りたにも関わらず、エルの表情はますます浮かなくなるだけだった。

 そんな表情を浮かべるエルを見て、時雨さんもリナさんも頭に疑問を浮かべる。

「どうしたんだエル?せっかく認めてもらったのに……」

「あ、あのっ」

 時雨さんの心配している言葉を遮ってエルは口を開く。

「だ、だから私は二人の意見が聞きたいの。二人は康生のことをどう思ってるの、か」

 ここでようやく二人は理解する。最初にエルが聞いてきた質問の意図を。

 そしてそれを理解した瞬間、瞬時に二人の顔が赤くなるのをエルはしっかりと見ていた。

「ば、馬鹿なこと言うなっ!わ、私は別に康生のことは尊敬していても、れ、恋愛対象なんかじゃ……!」

「そ、そうですよお嬢様!いくらお嬢様に釣り合うからといって、私なんかが康生とどうこうなるなんてあり得ませんっ!」

 二人は顔を真っ赤に染めながらに、早口でまくし立てる。

 しかしそれをエルは確信する。

 いくら口ではなんとも言おうが、二人は最低でも少しは康生を気になっているのだと。

 でもそれに気づいていないのか、それとも素直じゃないかまではエルには分からなかったので、エルは最後に二人向けて宣言する。

「私はこれから康生と結ばれるよう頑張る。二人が恋のライバルになるなら私は堂々と迎え撃つからそのつもりでいてねっ」

 エルはそれだけ言って、二人に背を向けてどこかへ行ってしまう。

 その場に康生を置いていったのは、どうやら自分では何も出来ないと分かっていたからかもしれなかった。

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